複素解析

第1講 複素数の表し方と演算

複素数 複素数とは,実数 $x$,$y$,および $i^2=-1$ を満たす特別な「数」$i$ を用いて
$x+yi$
と表される「数」のことである. $i$ を虚数単位, $x$ をこの複素数の実部, $y$ をこの複素数の虚部と呼ぶ. 複素数 $z$ の実部,虚部はそれぞれ $\mathrm{Re}z$,$\mathrm{Im}z$ と表すことが多い. 例えば
$\mathrm{Re}(2+3i)=2$, $\mathrm{Im}(2+3i)=3$
 虚部が $0$ である複素数は実数ということになるが,実数でない複素数,すなわち虚部が $0$ でない複素数を虚数と呼ぶ.また,実部が $0$ である虚数を純虚数と呼ぶ.
複素数の基本演算
複素数 $z=x+yi$ の虚部の符号を変えて得られる複素数を $z$ の複素共役と呼び,$\overline{z}$ で表す:
$\overline{z}=\overline{x+yi}=x-yi$ 
次が成り立つことを確かめるのは容易であろう:
$\overline{\overline{z}}=z$
$\overline{z+w}=\overline{z}+\overline{w}$
$\overline{zw}=\overline{z}\cdot\overline{w}$
$\overline{\Big(\dfrac{z}{w}\Big)}=\dfrac{\overline{z}}{\overline{w}}$ (ただし $w\neq0$)
複素平面,絶対値と偏角 複素数は二つの実数を用いて表されるのであるから,下の図のように複素平面と呼ばれる平面上の点として表すこともできる. すなわち、実部を横軸(実軸)上に、虚部を縦軸(虚軸)上にとり,複素数を平面上の点と見なすのである.
 複素平面上において,複素数 $z$ の絶対値 $|z|$ は 原点 $\mathrm{O}$ (あるいは複素数 $0$ )と $z$ とを結ぶ線分 $0z$ の長さであり, 偏角 $\arg{z}$ は $0z$ と実軸の正方向とのなす角である.ただし,偏角は指定のない限り一般角としてとるので一意ではない.
絶対値と偏角の性質としては次が重要である:
$\mathrm{(a)}$ $|zw|=|z|\cdot|w|$
$\mathrm{(b)}$ $|z+w|\le |z|+|w|$
$\mathrm{(c)}$ $\bigg|\,\dfrac{z}{w}\,\bigg|=\dfrac{|z|}{|w|}$
$\mathrm{(d)}$ $|\overline{z}|=|z|$
$\mathrm{(e)}$ $z\overline{z}=|z|^2$
$\mathrm{(f)}$ $\arg{(zw)}=\arg{z}+\arg{w}$
$\mathrm{(g)}$ $\arg{\dfrac{z}{w}}=\arg{z}-\arg{w}$
$\mathrm{(h)}$ $\arg{\overline{z}}=-\arg{z}$
ただし,$\mathrm{(c)}$ では $w\neq0$,$\mathrm{(f)}$~$\mathrm{(h)}$ では $z\neq0$ かつ $w\neq0$ とする.$0$ の絶対値 $|0|$ はもちろん $0$ であるが,$0$ の偏角は通常定義されない
Eulerの公式 $\theta$ を任意の実数とするとき,$\cos\theta+i\sin\theta$ は絶対値 $1$,偏角 $\theta$ の複素数を表すが,この複素数を
$e^{i\theta}\stackrel{\mathrm{def}}{=}\cos{\theta}+i\sin\theta$
と表す.$e^{i\theta}$ のことを $\exp{i\theta}$ とも書く (もちろん $e^{\theta i}$,$\exp{\theta i}$ と書いてもよい). 複素平面上では,$e^{i\theta}$ は単位円周上の点である.
この表記を用いると,絶対値 $r$,偏角 $\theta$ の複素数は
$re^{i\theta}$ あるいは $r\exp{i\theta}$
と表される.この表し方を複素数の極形式という.