写像 $X$,$Y$ を集合とするとき,各 $x\in X$ に対して
唯一つの $y\in Y$ を対応させる規則 $f$ を $X$ から $Y$ への
写像といい,
$f:X\to Y,\quad x\mapsto y$
あるいは
$f:X\to Y,\quad f(x)= y$
のように表す.
このとき,$X$ を $f$ の
定義域といい,$\mathrm{Dom}(f)$ と表す.
また,$f(x)$ のとり得る値の集合を $f$ の
値域といい,$\mathrm{Range}(f)$ と表す:
$\mathrm{Range}(f)=\{\,f(x)\in Y\,|\,x\in X\,\}$
$f$ が「実数 $x$ に実数 $x^2+1$ を対応させる写像」であれば,
$f:\mathbf{R}\to\mathbf{R},\quad x\mapsto x^2+1$
あるいは
$f:\mathbf{R}\to\mathbf{R},\quad f(x)=x^2+1$
のように表す.このとき,定義域,値域はそれぞれ
$\mathrm{Dom}(f)=\mathbf{R}$
$\mathrm{Range}(f)=\{\,x^2+1\,|\,x\in\mathbf{R}\,\}=[1,\infty)$
である.
写像を上記のように
$f:X\to Y$
と書くとき,$\mathrm{Range}(f)\neq Y$ でもよいが,原則として $\mathrm{Dom}(f)=X$ でなければならない.
例えば
$f:\mathbf{R}\to \mathbf{R},\quad f(x)=\dfrac{1}{x}$
という書き方は適切でなく
$f:\mathbf{R}\backslash\{\,0\,\}\to \mathbf{R},\quad f(x)=\dfrac{1}{x}$
と書くべきである.あるいは,この場合は値域もはっきりしているので
$f:\mathbf{R}\backslash\{\,0\,\}\to \mathbf{R}\backslash\{\,0\,\},\quad f(x)=\dfrac{1}{x}$
と書いてももちろんよい.
また,$f:X\to Y$ の集合 $Y$ のことを $f$ の値域ということもあるが,本講では $f$ の
終域といい,記号が必要なときは $\mathrm{Target}(f)$ で表すことにする.
$f$ を写像とするとき,当然ながら
$x=x'\ \Rightarrow f(x)=f(x')$
が成り立つ.これは,写像というものは一つの $x$ に対して
唯一つの $f(x)$ を対応させるからだということを強調しておく.
写像の典型的な例はもちろん関数であるが,関数の中には,一つの値に複数の値を対応させる「多価関数」というものもある.例えば逆三角関数の $\tan^{-1}$ などは
$\tan^{-1}(1)=\dfrac{\pi}{4}+n\pi\quad (n\in\mathbf{Z})$
というように,一つの実数に対して無数の実数を対応させる.
通常はこのようなものは写像には含めず,関数であれば多価でないもの,すなわち「一価関数」のみが写像として扱われる.
像と逆像 $X$,$Y$ を集合,$f:X\to Y$ を写像とする.
- $X$ の部分集合 $A$ の $f$ による像 $f(A)$ は
$f(A)\stackrel{\mathrm{def}}{=}\{\,f(x)\,|\,x\in A\,\}$
により定義される.特に,$f(X)=\mathrm{Range}(f)$ である.
- $Y$ の部分集合 $B$ の $f$ による逆像 $f^{-1}(B)$ は
$f^{-1}(B)\stackrel{\mathrm{def}}{=}\{\,x\,|\,f(x)\in B\,\}$
により定義される.
$f:\mathbf{R}\to \mathbf{R},\quad x\mapsto x^2$
とすると
$f(\,\mathbf{R}\,)=\{\,x^2\ |\ x\in\mathbf{R}\,\}=[0,\infty)$
$f(\,[1,2)\,)=\{\,x^2\ |\ x\in [1,2)\,\}\\
\hspace{37pt}=\{\,x^2\ |\ 1\le x < 2\,\}=[1,4)$
$f^{-1}(\,(0,1)\,)=\{\,x\ |\ 0 < x^2 < 1\,\}=(-1,0)\cup(0,1)$
$f^{-1}(\,\{\,4\,\}\,)=\{\,x\ |\ x^2=4\,\}=\{\,-2,2\,\}$
$f^{-1}(\,(-\infty,-1\,)=\{\,x\ |\ x^2< -1\,\}=\emptyset$
一般に,写像 $f:X\to Y$,集合 $A\subset X$,$B\subset Y$ について
$f^{-1}(f(A))\supset A$,$f(f^{-1}(B))\subset B$
が成り立つ.これらは定義から容易に示すことができる
詳しく!
$x\in A$とすると,$f(x)\in f(A)$ だから $x\in f^{-1}(f(A))$.よって$A\subset f^{-1}(f(A))$ が成り立つ.
また,$y\in f(f^{-1}(B))$ とすると,$y=f(x)$ となる $x\in f^{-1}(B)$ が存在するが,このとき $f(x)\in B$ なので $y\in B$.よって $f(f^{-1}(B))\subset B$ が成り立つ.
が,$f^{-1}(f(A))=A$,$f(f^{-1}(B))= B$ ということは一般には
成り立たないことに注意しよう.
例えば
$f:\mathbf{R}\to \mathbf{R},\quad x\mapsto x^2$
とすると
$f^{-1}(f(\,[0,2]\,))=f([0,4])=[-2,2]$
$f(f^{-1}(\,(-\infty,1])\,)=f([-1,1])=[0,1]$
となり,確かに
$f^{-1}(f(\,[0,2]\,))\supsetneq[0,2]$,
$f(f^{-1}(\,(-\infty,1])\,)\subsetneq (-\infty,1]$
となっている.