集合と位相

第5講 非可算集合

二進法による実数の表示 $\mathbf{R}$ の非可算性を示すための準備として,まず二進法による実数の表示法を復習しておこう.
 実数 $x\in[0,1)$ を二進法で表したときの小数第 $n$ 位 $a_n$ は
$a_n=\left\{\begin{array}{ll}0&\mbox{if $\ 2^{n-1}x-\lfloor 2^{n-1}x \rfloor < \dfrac{1}{2}$}\\[1mm] 1&\mbox{if $\ 2^{n-1}x-\lfloor2^{n-1}x\rfloor\ge \dfrac{1}{2}$} \end{array}\right.$
により与えられる.ただし,$\lfloor\,\cdot\,\rfloor$は床関数である.
数列の集合  上で見た通り, 実数の二進法表示とは,要するに実数を $0$ と $1$ の数字の並びで表すことであるから,実数と $0$ と $1$ からなる数列は一対一に対応するであろうことが予想される. すなわち,
$\{\,0,1\,\}^\infty\stackrel{\mathrm{def}}{=} \big\{\,(a_n)\ \big|\ a_n=0\ \mathrm{or}\ 1\ (n=1,2,\ldots\ )\,\big\}$
と表すとき
$f:\{\,0,1\,\}^\infty\to [0,1]$, $\displaystyle (a_n)\mapsto \sum_{n=1}^\infty\dfrac{a_n}{2^n}$
という写像によって,$0$ と $1$ からなる数列に実数を対応させることができる.
この対応によって $\#\{\,0,1\,\}^\infty=\#[0,1]$ と言いたいのだが,この $f$ は(全射ではあるが)単射ではない詳しく! ので少し調整が必要である.
 $\{0,1\}^\infty$ の部分集合で,$1$ を無限個含む数列全体からなる集合を $\{0,1\}_I^\infty$ で表そう:
$\{0,1\}_I^\infty\stackrel{\mathrm{def}}{=}\{\,(a_n)\,|\,\forall N\in\mathbf{N},\ \exists n\ge N,\ a_n=1\,\}$
このとき,上の $f$ の定義域を $\{0,1\}_I^\infty$ に制限した写像をやはり $f$ と表わすことにすると,この場合は
$f:\{\,0,1\,\}_I^\infty\to (0,1]$, $\displaystyle (a_n)\mapsto \sum_{n=1}^\infty\dfrac{a_n}{2^n}$
が全単射となり(値域が $0$ を含まないことに注意),従って
$\#\{0,1\}_I^\infty=\#(0,1]$
が成り立つ 詳しく! さらに
$\#\{0,1\}_I^\infty=\#\{0,1\}^\infty$
ということも成り立つ 証明 ので
$\#\{0,1\}^\infty=\#(0,1]$
が得られた. 前講で見たように,$\#(0,1]=\#\mathbf{R}$ はBernsteinの定理を用いると容易に示すことができるので,本節の結論として
$\#\{\,0,1\,\}^\infty=\#\mathbf{R}$
が言えたことになる.
冪集合 集合 $X$ のすべての部分集合からなる集合を $X$ の冪集合と呼び,$\mathcal{P}(X)$ と表す.
 $X$ が有限集合 $X=\{\,x_1,x_2,\ldots,x_N\,\}$ の場合は $X$ の部分集合は $N$ 個の $0$ または $1$ からなる有限列と一対一に対応する. すなわち
$\#\{\,0,1\,\}^N=\#\mathcal{P}(X)$
が成り立つ 詳しく! $X=\mathbf{N}$ の場合も同様に考えて
$\#\{\,0,1\,\}^\infty=\#\mathcal{P}(\mathbf{N})$
となる詳しく! 従って,前節の結論と合わせて
$\#\{\,0,1\,\}^\infty=\#\mathcal{P}(\mathbf{N})=\#\mathbf{R}$
ということがわかった.
Cantorの定理 集合 $A$,$B$ について,$A$ から $B$ への単射は存在するが全単射は存在しないとき
$\#A < \# B$ (または$\#B > \#A$)
と表す. Cantorの定理は,空でない任意の集合 $X$ について
$\# X < \#\mathcal{P}(X)$
が成り立つことを主張する証明
$\mathbf{R}$ と $\mathbf{C}$ の濃度 ここまでの議論で,既に $\mathbf{R}$ の非可算性は示されている.すなわち,前節のCantorの定理により
$\#\mathbf{N} < \#\mathcal{P}(\mathbf{N})=\#\mathbf{R}$
ということがわかった.最後に
$\#\mathbf{R} =\#\mathbf{C}$
であることも見ておこう. 実際, $(a_n),(b_n)\in\{\,0,1\,\}^\infty$に対して
$c_n=\left\{\begin{array}{ll}a_n&\mbox{if $n=2m-1$}\\b_n&\mbox{if $n=2m$}\end{array}\right.\quad(m\in\mathbf{N})$
により定まる $(c_n)$ を対応させる写像は $\{\,0,1\,\}^\infty\times\{\,0,1\,\}^\infty$ から $\{\,0,1\,\}^\infty$ への全単射を与える. $(c_n)\in\{\,0,1\,\}^\infty$に対して $(\ (c_{2n-1}),(c_{2n})\ )\in\{\,0,1\,\}^\infty\times\{\,0,1\,\}^\infty$ を対応させる写像がその逆写像である. 従って
$\#\mathbf{R}^2=\#(\{\,0,1\,\}^\infty\times\{\,0,1\,\}^\infty)=\#\{\,0,1\,\}^\infty=\#\mathbf{R}$
となる.$\#\mathbf{R}^2=\#\mathbf{C}$ は $(x,y)\mapsto x+yi$ の対応により明らかであろう.