開集合と閉集合
$(X,d)$ を距離空間とする.
$X$ の部分集合 $U$ が
開集合であるとは,
$\forall a\in U,\ \exists\varepsilon>0,\ d(a,x)<\varepsilon\Rightarrow x\in U$
を満たすことをいう.
$a\in X$,$\varepsilon > 0$ に対して
$U_a(\varepsilon)\stackrel{\mathrm{def}}{=}\{\,x\in X\ |\ d(a,x) < \varepsilon\,\}$
と定めると,上の定義は
$\forall a\in U,\ \exists\varepsilon>0,\ U_a(\varepsilon)\subset U$
と表すことができる.$U_a(\varepsilon)$ を $a$ の
$\varepsilon-$近傍と呼ぶ.
$\mathbf{R}$ において通常の距離 $d(x,x')=|x-x'|$ を考えるとき,開区間
$(a,b)$
は開集合である.
実際,任意の $x\in (a,b)$ に対して $(x-\varepsilon,x+\varepsilon)\subset(a,b)$ となる $\varepsilon > 0$ がとれるからである.同様に,
$(a,\infty)$,$(-\infty,a)$,$\mathbf{R}\backslash\{a\}$
なども開集合である.もちろん $\mathbf{R}$,$\emptyset$ も開集合である($\emptyset$ に関しては規約と考えてもよい).
$\mathbf{R}^2$ において通常の距離 $d((x,y),(x',y'))=\sqrt{(x-x')^2+(y-y')^2}$ を考えるとき
$\{\,(x,y)\ |\ x^2+y^2 < 1\,\}$,$\{\,(x,y)\ |\ x > y\,\}$
などは開集合である.
要するに,開集合とは「境界を含まない集合」と考えてよい.
$X$ のすべての開集合からなる集合を $\mathcal{O}_X$,$\mathcal{O}_{(X,d)}$ などと書くことにする.
以下の三つの性質は開集合という概念を特徴付ける重要なものである:
-
$\displaystyle X,\,\emptyset\in\mathcal{O}_X$ (全体集合および空集合は開集合である)
-
$\displaystyle U_1,\,U_2\in\mathcal{O}_X \Rightarrow U_1\cap U_2\in\mathcal{O}_X$ (
二個の開集合の共通部分は開集合である)
従って,有限個の開集合の共通部分は開集合ということになる.
無限個だとそうは言えない.例えば,$\mathbf{R}$ (通常の距離)において
開区間は開集合であるが
$\displaystyle \bigcap_{n=1}^\infty(-1/n,1/n)=\{0\}$
となり,$\{0\}$ はもちろん開集合ではない.
-
$\displaystyle \forall\lambda\in\Lambda,\ U_\lambda\in\mathcal{O}_X \Rightarrow \bigcup_{\lambda\in\Lambda} U_\lambda\in\mathcal{O}_X$ (任意個の開集合の和集合は開集合である)
$X$ の部分集合 $F$ が
閉集合であるとは,その補集合 $F^c$ が開集合であることをいう.
$X$ のすべての開集合からなる集合を $\mathcal{F}_X$,$\mathcal{F}_{(X,d)}$ などと書く.
$\mathbf{R}$ (通常の距離)
において,閉区間
$[a,b]$
は閉集合である.
実際,補集合 $[a,b]^c=(-\infty,a)\cup(b,\infty)$ は開集合である.
同様に,
$[a,\infty)$,$(-\infty,a]$,$\{a\}$
なども閉集合である.$\mathbf{R}$,$\emptyset$ も閉集合である($\mathbf{R}^c=\emptyset$,$\emptyset^c=\mathbf{R}$ がそれぞれ開集合であるから).
$\mathbf{R}^2$ (通常の距離)において
$\{\,(x,y)\ |\ x^2+y^2 \le 1\,\}$,$\{\,(x,y)\ |\ x \ge y\,\}$
などは閉集合である.
要するに,閉集合とは「境界を含む集合」と考えてよい.
閉集合に関しては,先に挙げた開集合の性質から次が成り立つことがわかる:
-
全体集合 $X$,および空集合 $\emptyset$ は閉集合である:
$\displaystyle X,\,\emptyset\in\mathcal{F}_X$
-
二個の閉集合の和集合は開集合である:
$\displaystyle F_1,\,F_2\in\mathcal{F}_X \Rightarrow F_1\cup F_2\in\mathcal{F}_X$
-
任意個の閉集合の共通部分は閉集合である:
$\displaystyle \forall\lambda\in\Lambda,\ F_\lambda\in\mathcal{F}_X \Rightarrow \bigcap_{\lambda\in\Lambda} F_\lambda\in\mathcal{F}_X$
内部と閉包
$(X,d)$ を距離空間とする.
-
$X$ の部分集合 $A$ の内部(開核)とは,$A$ に含まれる最大の開集合のことをいい,$A^{\circ}$ と表す.
-
$X$ の部分集合 $A$ の閉包 とは,$A$ を含む最小の閉集合のことをいい,$\overline{A}$ で表す.
もう少し正確に言うと,$A$ の内部 $A^\circ$ とは
$U\subset A,\ U\in\mathcal{O}_X\ \Rightarrow\ U\subset A^\circ$
を満たすような集合である.
そのような集合は確かに存在して
$\displaystyle A^\circ=\bigcup_{U\in\mathcal{O},\ U\subset A}U$
すなわち,$A$ に含まれるすべての開集合の和集合が $A^\circ$ である.
同様に,$A$ の閉包 $\overline{A}$ とは
$A\subset F,\ F\in\mathcal{F}_X\ \Rightarrow\ \overline{A}\subset F$
を満たすような集合である.
そのような集合は確かに存在して
$\displaystyle \overline{A}=\bigcap_{f\in\mathcal{F},\ A\subset F}F$
すなわち,$A$ を含るすべての閉集合の共通部分 $\overline{A}$ である.
$\mathbf{R}$ (通常の距離)において
$[0,1)^\circ=(0,1)$,$\overline{[0,1)}=[0,1]$
である.要するに,内部とは「境界」を取り除いたもの,閉包とは「境界」を付け加えたものと考えてよい.
ただし,例えば $\mathbf{Q}$ のように「境界」が判然としない場合もある.このような場合は定義に戻って
$\mathbf{Q}^\circ=\emptyset$,$\overline{\mathbf{Q}}=\mathbf{R}$
とわかる.
このことを確かめるには,$\mathbf{R}$ の任意の開区間 $(a,b)$ は有理数と無理数の両方を含むということに注意するとよい.
実際,開区間は非可算集合,$\mathbf{Q}$ は可算集合なので,開区間 $(a,b)$ が有理数しか含まないということは有り得ず,
また,$\varepsilon=b-a( > 0)$ とおくと,$1/2^n < \varepsilon$ となる $n\in\mathbf{N}$ がとれるから,このとき $(a,b)$ は $\dfrac{m}{2^n}\ (m\in\mathbf{Z})$ という形の有理数を少なくとも一つは含む.