第7講 距離空間における点列の収束と写像の連続性
点列の収束
距離空間 $(X,d)$ において,点列 $(a_n)_{n\in\mathbf{N}}$ が点 $a$ に
収束する
$\forall\varepsilon > 0,\ \exists N\in\mathbf{N},\ n\ge N\ \Rightarrow\ d(a_n,a) < \varepsilon$
が成り立つことをいい,このとき
$\displaystyle \lim_{n\to\infty}a_n=a$と表わす.
このことは,実数列 $\big(d(a_n,a)\big)_{n\in\mathbf{N}}$ が $\mathbf{R}$ の
通常の距離に関して
$\displaystyle \lim_{n\to\infty}d(a_n,a)=0$
となることと同値である.
$\mathbf{R}$ における距離 $d$ を,関数
$\varphi(x)=\left\{\begin{array}{ll}x+1&\mbox{if $x > 0$}\\x&\mbox{if $x \le 0$}\end{array}\right.$
により
$d(x,x')=|\varphi(x)-\varphi(x')|$
と定める.$d$ が距離であることは,$\varphi$ が単射であることより容易にわかる.
この距離に関しては,例えば
$\displaystyle \lim_{n\to\infty}\dfrac{1}{n}=0$
ということが成り立たない.実際
$d(\frac{1}{n},0)=\big|\varphi\big(\frac{1}{n}\big)-\varphi(0)\big|=\dfrac{1}{n}+1$
ゆえ,$d(\frac{1}{n},0) > 1\ (\forall n\in\mathbf{N})$ だからである.しかし
$\displaystyle \lim_{n\to\infty}\Big(-\dfrac{1}{n}\Big)=0$
は成り立つ.実際
$d(-\frac{1}{n},0)=\big|\varphi\big(-\frac{1}{n}\big)-\varphi(0)\big|=\dfrac{1}{n}$
ゆえ,$n$ を大きくすれば $d(-\frac{1}{n},0)$ は $0$ に(通常の意味で)近づくからである.
このように,距離のとり方によっては収束するか否かの直観的な判断が難しい場合があるので,定義を常に念頭において慎重に考える必要がある.
点列の収束と開集合・閉集合
距離空間$(X,d)$ において $\displaystyle \lim_{n\to\infty}a_n=a$ であることは次と同値である
証明:
$[\ U\in\mathcal{O}_X,\ a\in U\ ]$$\ \Rightarrow\ [\ \exists N\in\mathbf{N},\ n\ge N\Rightarrow a_n\in U\ ]$
ただし,$\mathcal{O}_X$ はすべての $X$ の開集合からなる集合である.
$\displaystyle \lim_{n\to\infty}a_n=a$ とし,
$U\in\mathcal{O}_X$,$a\in U$ とすると,$U$ が開集合であることより $d(x,a) < \varepsilon\Rightarrow x\in U$ となる $\varepsilon > 0$ がとれる.この $\varepsilon$ に対して,$n\ge N\Rightarrow d(a_n,a) < \varepsilon$ となるような $N\in\mathbf{N}$ がとれるから,このとき $n\ge N\Rightarrow a_n\in U$ が成り立つ.
逆が言えること,開球 $U_a(\varepsilon)=\{\,x\ |\ d(x,a) < \varepsilon \,\}$ が $U_a(\varepsilon)\in \mathcal{O}_X$,$a\in U_a(\varepsilon)$ を満たし,かつ
$\displaystyle \lim_{n\to\infty}a_n=a$$\Leftrightarrow [\ \forall\varepsilon > 0,\ \exists N\in\mathbf{N},\ n\ge N\Rightarrow\ a_n\in U_a(\varepsilon)\ ]$
に注意すれば明らかであろう.
これはすなわち,$U$ が $a$ を含む開集合ならば,ある番号から先の $a_n$ はすべて $U$ に入っているということを言っている.
$a$ に近づくためには,$a$ が入っている開集合の中に入っていかないといけないということである.
開集合でなく閉集合ならそうではないことに注意しよう.
すなわち,$F$ が閉集合で $a\in F$ であっても,$a_n\notin F,\ \forall n\in\mathbf{N}$ かつ $\displaystyle \lim_{n\to\infty}a_n=a$ ということはあり得る.
例えば,$\mathbf{R}$ (通常の距離) において
$a=0,\ a_n=\dfrac{1}{n},\ F=(-\infty,0]$
の場合のように,$a$ が $F$ の「境界上」にいれば,$a_n$ が $F$ に入らずとも $a$ に近づくことは可能なのである.
このように,点列の収束と開集合・閉集合という概念は密接に関わっている.
点列がある点に近づくことができるかどうかは,その空間における開集合・閉集合がどのような集合なのかで決まると言ってもよい.
写像の連続性
距離空間 $(X,d_X)$ から距離空間 $(Y,d_Y)$ への写像 $f:X\to Y$ について,
$f$ が点 $a\in X$ で
連続であるとは
$\forall \varepsilon > 0,\ \exists\delta > 0,\ d_X(a,x) < \delta\ \Rightarrow \ d_Y(f(a),f(x)) < \varepsilon$
が成り立つことをいう.
このことは,$U_a(\delta)=\{\,x\in X\ |\ d_X(a,x) < \delta\,\}$,
$U_{f(a)}(\varepsilon)=\{\,y\in Y\ |\ d_Y(f(a),y) < \varepsilon\,\}$ とおくことにより
$\forall \varepsilon > 0,\ \exists\delta > 0,\ U_a(\delta)\subset f^{-1}(U_{f(a)}(\varepsilon))$
と表わすこともできる.
$\mathbf{R}$ において,距離 $d$ を関数
$\varphi(x)=\left\{\begin{array}{ll}x+1&\mbox{if $x > 0$}\\x&\mbox{if $x \le 0$}\end{array}\right.$
により
$d(x,x')=|\varphi(x)-\varphi(x')|$
と定め,
通常の距離を $d_0(x,x')=|x-x'|$ とする.このとき,
写像
$f:(\mathbf{R},d_0)\to (\mathbf{R},d),\quad f(x)=x$
は $x=0$ において連続でない.
実際,$x > 0$ ならば $|\varphi(x)-\varphi(0)|=x+1 > 1$ であるから
$d_0(x,0)= |x| $ をいくら小さくしても,$ x > 0$ である限り
$d_1(x,0) > 1$である.すなわち
$\forall \delta > 0, \ \exists x\in\mathbf{R},\ d_0(x, 0) < \delta\ \mathrm{and}\ d_1(x,0) > 1 $
が成り立つ.
$x,x'$ がともに正,またはともに負のときは$|\varphi(x)-\varphi(x')|=|x-x'|$ であるから,$x\neq 0$ なる点では $f$ は連続である.
一方,
写像
$f^{-1}:(\mathbf{R},d)\to (\mathbf{R},d_0),\quad f^{-1}(x)=x$
すべての点で連続である.このことは,
$d_0(x,x')\le d(x,x'),\ \forall x,x'\in\mathbf{R}$ に注意すると容易にわかる.
一般に,写像 $\psi$ が点 $a$ において連続であるというのは,要するに「$x$ が $a$ に近ければ $\psi(x)$ も $\psi(a)$ に近い」ということであるので,この「近い」かどうかを測る距離をどのようにとるかが,写像の連続性に直接関わっている.点列の収束と同様に距離のとり方によっては直観に反することが十分起こり得るのである.
連続写像と開集合・閉集合
距離空間 $(X,d_X)$ から距離空間 $(Y,d_Y)$ への写像
$f:X\to Y$ が $X$ のすべての点で連続であるとき,$f$ は $(X,d_X)$ から $(Y,d_Y)$ への
連続写像であるという.
連続写像を特徴づけるのが次の開集合を用いた表現である:
$f:(X,d_X)\to(Y,d_Y)$が連続写像であるための必要十分条件は
$V\in\mathcal{O}_Y\ \Rightarrow\ f^{-1}(V)\in\mathcal{O}_X$
が成り立つことである
ただし,$\mathcal{O}_X$,$\mathcal{O}_Y$ はそれぞれすべての $X$ の開集合,$Y$ の開集合からなる集合である.
すなわち,連続写像とは開集合を開集合に引き戻すような写像ということができる
証明.
$V\in \mathcal{O}_Y$ とし,$x\in f^{-1}(V)$ を任意にとると,$f(x)\in V$ であるから開集合の定義より
$\exists \varepsilon>0,\ d_Y(f(x),y) < \varepsilon\ \Rightarrow\ y\in V$
この $\varepsilon$ に対して,$f$ の連続性により
$\exists \delta>0,\ d(x,x')<\delta\Rightarrow d_Y(f(x),f(x')) < \varepsilon$
となる $\delta > 0$ がとれるから,このとき $d(x,x')<\delta\ \Rightarrow\ x'\in f^{-1}(V)$
が成り立ち,従って $f^{-1}(V)$ は開集合である.
逆に,$V\in\mathcal{O}_Y\ \Rightarrow\ f^{-1}(V)\in\mathcal{O}_X$ が成り立つならば $f$ は連続写像である.実際,
$a\in X$ および $\varepsilon > 0$ を任意にとり,$U_{f(a)}=\{\,y\ |\ d_Y(f(a),y) < \varepsilon\,\}$ とおくと,$U_{f(a)}\in\mathcal{O}_Y$
であるから,仮定より $f^{-1}(U_{f(a)})\in\mathcal{O}_X$.よって開集合の定義より
$\exists\delta > 0,\ d_X(a,x) < \delta\ \Rightarrow\ x\in f^{-1}(U_{f(a)})$
このことは $d_X(a,x) < \delta\ \Rightarrow\ d_Y(f(a),f(x)) < \varepsilon$ を意味する.