第8講 位相空間
位相
集合 $X$ の部分集合族 $\mathcal{O}$ が $X$ の
位相であるとは
$\mathrm{(i)}$ $\emptyset,X\in\mathcal{O}$
$\mathrm{(ii)}$ $O_1,O_2\in\mathcal{O}\Rightarrow O_1\cap O_2\in\mathcal{O}$
$\mathrm{(iii)}$ $\displaystyle O_\lambda\in\mathcal{O}\ (\lambda\in\Lambda)\ \Rightarrow\ \bigcup_{\lambda\in\Lambda}O_\lambda\in\mathcal{O}$
を満たすことをいう.
このとき,位相 $\mathcal{O}$ の各元を $X$ の
開集合という.$\mathcal{O}$ のことを開集合の集まりという意味で
開集合系と呼ぶこともある.
また,開集合の補集合となる集合を $X$ の
閉集合という.
また,位相が定義された集合を
位相空間と呼び,$(X,\mathcal{O})$ のように表わす.
すべての閉集合からなる集合 $\mathcal{F}$ は
閉集合系と呼ばれる.
$\mathrm{(i)}$ $\emptyset,X\in\mathcal{F}$
$\mathrm{(ii)}$ $F_1,F_2\in\mathcal{F}\Rightarrow F_1\cup F_2\in\mathcal{F}$
$\mathrm{(iii)}$ $\displaystyle F_\lambda\in\mathcal{F}\ (\lambda\in\Lambda)\ \Rightarrow\ \bigcap_{\lambda\in\Lambda}F_\lambda\in\mathcal{F}$
が成り立つことはdeMorganの規則により直ちに確かめられる.
-
空でない任意の集合 $X$ において
$\mathcal{O}_i=\{\,\emptyset,\ X\,\}$,
$\mathcal{O}_d=\mathcal{P}(X)$ (冪集合)
はそれぞれ明らかに上記の条件 $\mathrm{(i)}\sim\mathrm{(iii)}$ を満たすので $X$ の位相である.
$X$ の任意の位相 $\mathcal{O}$ は $\emptyset$,$X$ を含み,当然 $X$ の部分集合からなる集合なので
$\mathcal{O}_i\subset\mathcal{O}\subset\mathcal{O}_d$
を満たす.この意味で,$\mathcal{O}_i$ は $X$ の最弱の位相であり,密着位相とも呼ばれる.
$\mathcal{O}_d$ は $X$ の最強の位相であり,離散位相とも呼ばれる.
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距離空間 $(X,d)$ における開集合系 $\mathcal{O}_X$ は
$O\in\mathcal{O}_X\stackrel{\mathrm{def}}{\Leftrightarrow}
\forall x\in O,\ \exists\varepsilon > 0,\ U_x(\varepsilon)\subset O$
により定義されるのであった.ただし,$U_x(\varepsilon)=\{\,x'\ |\ d(x,x') < \varepsilon\,\}$ である.
この $\mathcal{O}_X$ が上記の条件条件 $\mathrm{(i)}\sim\mathrm{(iii)}$ を満たす証明
ことは第6講で触れた.
$\emptyset,X\in\mathcal{O}_X$ は明らか.
$O_1,O_2\in\mathcal{O}_X$ を開集合とし,
$x\in O_1\cap O_2$ を任意にとると,$\exists\varepsilon_i>0$,$U_x(\varepsilon_i)\subset O_i$ $(i=1,2)$.
そこで,$\varepsilon=\min\{\varepsilon_1,\varepsilon_2\}$ とおくと,$U_x(\varepsilon)\subset O_1\cap O_2$ となるから $O_1\cap O_2\in\mathcal{O}(X)$ である.
また,$O_\lambda\in\mathcal{O}_X\ (\lambda\in\Lambda)$ とし,
$x\in\bigcup_{\lambda\in\Lambda}O_\lambda$ を任意にとると,$\exists \lambda_0\in\Lambda$,$x\in O_{\lambda_0}$ であり,$O_{\lambda_0}$ は開集合であるから,$\exists \varepsilon>0$,$U_x(\varepsilon)\subset O_{\lambda_0}$,すなわち $U_x(\varepsilon)\subset \bigcup_{\lambda\in\Lambda}O_\lambda$.従って $\bigcup_{\lambda\in\Lambda}O_\lambda\in\mathcal{O}_X$ である.
この距離空間における開集合系のもつ性質を取り出したものが位相の定義であるので,
距離空間が自然に位相空間とみなせることは当然と言える.
位相の生成
集合 $X$ において,$X$ の部分集合族 $\mathcal{S}$ が与えられたとき,
$\mathcal{S}$ を含む最小の位相(最弱の位相)を $\mathcal{S}$ が
生成する位相といい,$\mathcal{O}(\mathcal{S})$ で表す.
ここで,「最小(最弱)」という意味は,$\mathcal{O}$ が $X$ の位相であって $\mathcal{S}\subset\mathcal{O}$ ならば $\mathcal{O}(\mathcal{S})\subset\mathcal{O}$ が成り立つということである.
$\mathbf{R}$ において,$\mathcal{S}_1=\{\,(-1,0],\ [0,1)\,\}$ とすると,
$\mathcal{S}_1$ を含む位相は $\emptyset$,$\mathbf{R}$,および
$(-1,0]\cap[0,1)=\{0\}$,$(-1,0]\cup[0,1)=(-1,1)$
を含まなければならないので
$\mathcal{O}(\mathcal{S}_1)=\{\,\emptyset,\ \{0\},\ (-1,0],\ [0,1),\ (-1,1),\ \mathbf{R}\,\}$
となる.
また,$\mathcal{S}_2=\big\{\,\{x\}\ \big|\ x\in\mathbf{R}\,\big\}$ とすると,
$\mathcal{O}(\mathcal{S}_2)$ は $\mathbf{R}$ の部分集合をすべて含まなければならない.なぜなら,任意の $A\subset\mathbf{R}$ は $A=\bigcup_{x\in A}\{x\}$ と表わされるからである.従って $\mathcal{O}(\mathcal{S}_2)=\mathcal{P}(\mathbf{R})$,すなわち $\mathcal{O}(\mathcal{S}_2)$ は離散位相である.
近傍
位相空間 $(X,\mathcal{O})$ において,集合 $V\ (\subset X)$ が点 $x\ (\in X)$ の
近傍であるとは,$x\in O$ かつ $O\subset V$ を満たす $O\in\mathcal{O}$ が存在することをいう.
$x\in X$ の近傍全体の集合を $x$ の
近傍系といい,$\mathcal{V}(x)$ で表す.
近傍系について,次が成り立つことが確かめられる:
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$V\in\mathcal{V}(x)$ ならば,$x\in V$
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$V\in\mathcal{V}(x)$ かつ $V\subset V'(\subset X)$ならば,$V'\in\mathcal{V}(x)$
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$V_1,V_2\in\mathcal{V}(x)$ ならば,$V_1\cap V_2\in \mathcal{V}(x)$
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任意の $V\in\mathcal{V}(x)$ に対して,$W\in\mathcal{V}(x)$ が存在して,$y\in W\Rightarrow V\in\mathcal{V}(y)$ が成り立つ.
実は,集合 $X$ の各点 $x$ に対してこれらの条件を満たす集合族 $\mathcal{V}(x)$ が与えられているとき
$x\in O\ \Rightarrow \exists V \in\mathcal{V}(x),\ V\subset O$
あるいは,同じことであるが
$x\in O\ \Rightarrow\ O\in\mathcal{V}(x)$
が成り立つような $X$ の部分集合 $O$ を開集合と定義することで $X$ に位相を定めることができる.
「位相」とは要するに開集合系のことであって,どのような集合を開集合と指定するかによって集合に位相が導入されるのであるが,直接開集合を指定するのではなく,近傍系を指定することによっても位相を導入することができるのである.
$\mathbf{R}$ の位相を通常の距離により定まるものとすると,
$0$ の近傍とは要するにその内部に $0$ を含むような集合であるから,例えば
$\mathbf{R}$,
$(-1,1]$,
$[-\frac{1}{2},\infty)$
のような集合であって
$\{0\}$,
$\mathbf{Z}$,
$[0,\infty)$
などは $0$ を含む集合ではあるが $0$ の近傍ではない.