線型代数

第2講 実2次正方行列の逆行列,行列とベクトル

行列式 実 $2\times2$ 行列 $A=\left(\begin{array}{cc}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{array}\right)$ に対して,式 $a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}$ を $A$ の行列式と呼び $|A|$,$\det{A}$,$\left|\begin{array}{cc}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{array}\right|$などと表す:
$|A|=\det{A}=\left|\begin{array}{cc}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{array}\right|=a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}$
逆行列 $A$ を実 $2$ 次正方行列,$E$ を $2$ 次の単位行列とするとき
$AA^{-1}=A^{-1}A=E$
を満たす行列 $A^{-1}$ を $A$ の逆行列という.
行列 $A=\left(\!\begin{array}{cc}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{array}\!\right)$ の逆行列は,$\det{A}\neq0$ ならば
$\left(\!\begin{array}{cc}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{array}\!\right)^{-1} =\dfrac{1}{\det{A}}\left(\!\begin{array}{cc}a_{22}&-a_{12}\\-a_{21}&a_{11}\end{array}\!\right)$
で与えられる.$\det{A}=0$ のときは逆行列は存在しない 詳しく!
逆行列を持つ行列を正則行列という.すなわち
$A$ が正則 $\Leftrightarrow A^{-1}$ が存在する $\Leftrightarrow \det{A}\neq0$
二つの行列 $A$,$B$ がともに正則であれば,積 $AB$ も正則であり,従って逆行列を持つが,計算の際は積の順序に注意:
$(AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1}$
実際 $AB(B^{-1}A^{-1})=(B^{-1}A^{-1})AB=E$ が成り立つことは容易に確認できよう.
行列とベクトル 行列の役割は,ベクトルに作用して新しいベクトルに変換することである. すなわち
$\left(\begin{array}{cc}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right) = \left(\begin{array}{c}a_{11}x_1+a_{12}x_2\\a_{21}x_1+a_{22}x_2\end{array}\right)$
という演算規則により,行列 $A$ はベクトル $\mathbf{x}$ をベクトル $A\mathbf{x}$ に変換する.このような,行列によるベクトルの変換は線型変換一次変換などと呼ばれる.
ベクトルの回転 次の形の行列はベクトルを角 $\theta$ だけ回転させる変換を表す.
$\left(\begin{array}{cc}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{array}\right)$
この行列を $\mathrm{Rot}(\theta)$ と表すことにしよう.すなわち,任意に与えられたベクトル $\mathbf{v}$ に対して,$\mathrm{Rot}(\theta)\mathbf{v}$ は $\mathbf{v}$ と $\theta$ の角をなし.大きさ(長さ)は $\mathbf{v}$ と等しいベクトルである 詳しく! $xy$ 平面において,$(a,b)$ を座標として持つ点はしばしばその位置ベクトル $\left(\begin{array}{c}a\\b\end{array}\right)$ と同一視される. その観点から「座標平面における点の回転移動」を考えよう: $\mathrm{O}$ を原点とする $xy$ 平面上において点 $\mathrm{A}$ を点 $\mathrm{B}$ を中心に角 $\theta$ だけ回転にした点を$\mathrm{A'}$とするとき,ベクトルの関係としては
$\overrightarrow{\mathrm{BA'}}=\mathrm{Rot}(\theta)\,\overrightarrow{\mathrm{BA}}$
が成り立つ.従って点 $\mathrm{A'}$ の位置ベクトルは
$\overrightarrow{\mathrm{OA'}} =\overrightarrow{\mathrm{OB}}+\overrightarrow{\mathrm{BA'}} =\overrightarrow{\mathrm{OB}}+\mathrm{Rot}(\theta)\,\overrightarrow{\mathrm{BA}}$
と計算されることになる.
連立一次方程式 二元連立一次方程式
$\left\{\begin{array}{l}ax+by=p\\cx+dy=q\end{array}\right.$
は,行列とベクトルを用いて
$\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right) \left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) =\left(\begin{array}{c}p\\q\end{array}\right)$
と表すことができる.従って,もし係数行列 $\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right)$ が逆行列を持つならば,それを両辺に左から掛けることによって
$\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) =\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right)^{-1}\left(\begin{array}{c}p\\q\end{array}\right)$
として解を求めることができる. 逆行列を持たない場合も含め,一般の連立一次方程式の取り扱いについては後述する.