線型代数

第4講 2次の行列式の性質

行列式と面積 実 $2\times 2$ 行列 $A=\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right)$ の行列式は
$\det{A}\stackrel{\mathrm{def}}{=}ad-bc$
で定義され,これは $|A|$,$\left|\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right|$ などとも書かれるのであった(絶対値記号と混同しないようくれぐれも注意). 一方,$xy$ 平面上の $3$ 点 $(0,0)$,$(a,c)$,$(b,d)$ を頂点とする三角形の面積 $S$ は
$S=\dfrac{1}{2}|ad-bc|$
で与えられることを思い出そう(ここに現れた $|\ \cdot\ |$ はもちろん絶対値である). すなわち,$\det{A}$ (の絶対値)は,$2$ 本のベクトル $\left(\begin{array}{c}a\\c\end{array}\right)$,$\left(\begin{array}{c}b\\d\end{array}\right)$ がつくる平行四辺形の面積に等しい.
特に,例えば $\left|\begin{array}{cc}1&2\\3&6\end{array}\right|=0$ のように, $\left(\begin{array}{c}a\\c\end{array}\right)$ と $\left(\begin{array}{c}b\\d\end{array}\right)$ が平行であるときは(どちらかが零ベクトルのときも含め)
$\left|\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right|=0$
となることに注目しよう. 平行な $2$ 本のベクトルは平行四辺形をつくれないので,このような状況は「面積 $0$」と考えることができる.
行・列の入れ替え 行列式に関する重要な性質として,まず行や列の入れ替えに関する性質を確認しておく: いずれも計算してみれば成り立つことはすぐにわかるのではあるが, 以下に挙げることも含め,これらは $2$ 次の場合に限らない行列式一般の性質なのでここでしっかり意識しておきたい.
線型性 行列式は各列,各行について線型である. 例えば,第 $1$ 列については
$\left|\begin{array}{cc}a_1&b_1\\a_2&b_2\end{array}\right| +\left|\begin{array}{cc}c_1&b_1\\c_2&b_2\end{array}\right| =\left|\begin{array}{cc}a_1+c_1&b_1\\a_2+c_2&b_2\end{array}\right|$
$k\left|\begin{array}{cc}a_1&b_1\\a_2&b_2\end{array}\right| =\left|\begin{array}{cc}ka_1&b_1\\ka_2&b_2\end{array}\right|$  $(k\in\mathbf{R})$
が成り立つ.例によってこれらは
$k\left|\begin{array}{cc}a_1&b_1\\a_2&b_2\end{array}\right| +l\left|\begin{array}{cc}c_1&b_1\\c_2&b_2\end{array}\right| =\left|\begin{array}{cc}ka_1+lc_1&b_1\\ka_2+lc_2&b_2\end{array}\right|\\\hspace{150pt}(k,l\in\mathbf{R})$
と一つの式にまとめることができる その他は?
次の性質は,行列式の計算において極めて重要である: このことは,上の線型性から容易に導くことができる詳しく!
積の行列式 積の行列式は行列式の積に等しい.すなわち
$\det{(AB)}=\det{A}\det{B}$
が成り立つ. このことは上に挙げた性質ほど明らかとは言えないが,やはり両辺を計算することによって確かめられる 詳しく!
 この性質から導かれる重要な事実をいくつか挙げておく(以下において,$A$,$B$ は任意の実 $2\times 2$ 行列である): また,一般には行列式の性質だけから導かれるわけではないが,次のことにも注意しておこう.
Cramerの公式 2元連立一次方程式
$\left\{\begin{array}{l}ax+by=p\\cx+dy=q\end{array}\right.$
は行列とベクトルで
$\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right) \left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) =\left(\begin{array}{c}p\\q\end{array}\right)$
と表すことができるのであった. このとき,係数行列 $\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right)$ が正則ならば(逆行列をもつので)方程式は一意に解をもつが,その解は行列式を用いて
$ x=\dfrac{\left|\begin{array}{cc}p&b\\q&d\end{array}\right|} {\left|\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right|} $, $ y=\dfrac{\left|\begin{array}{cc}a&p\\c&q\end{array}\right|} {\left|\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right|} $
により与えられるというのがCramerの公式と呼ばれているものである 詳しく!