行列式と面積
実 $2\times 2$ 行列 $A=\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right)$ の行列式は
$\det{A}\stackrel{\mathrm{def}}{=}ad-bc$
で定義され,これは $|A|$,$\left|\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right|$ などとも書かれるのであった(絶対値記号と混同しないようくれぐれも注意).
一方,$xy$ 平面上の $3$ 点 $(0,0)$,$(a,c)$,$(b,d)$ を頂点とする三角形の面積 $S$ は
$S=\dfrac{1}{2}|ad-bc|$
で与えられることを思い出そう(ここに現れた $|\ \cdot\ |$ はもちろん絶対値である).
すなわち,$\det{A}$ (の絶対値)は,$2$ 本のベクトル $\left(\begin{array}{c}a\\c\end{array}\right)$,$\left(\begin{array}{c}b\\d\end{array}\right)$ がつくる平行四辺形の面積に等しい.
$xy$ 平面において,三点 $\mathrm{A}(1,2)$,$\mathrm{B}(2,1)$,$\mathrm{C}(-1,-3)$ を頂点とする三角形の面積を $S$ とすると
$\overrightarrow{\mathrm{AB}}=\left(\begin{array}{c}1\\-1\end{array}\right)$,
$\overrightarrow{\mathrm{AC}}=\left(\begin{array}{c}-2\\-5\end{array}\right)$
であって
$\Big|\ \overrightarrow{\mathrm{AB}}\ \ \overrightarrow{\mathrm{AC}}\ \Big|
=\left|\begin{array}{cc}1&-2\\-1&-5\end{array}\right|=-7$
だから,面積は $S=\dfrac{1}{2}|-7|=\dfrac{7}{2}$ となる.
$2\times 2$ 行列 $A=\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right)$ を $2$ 本のベクトル
$\mathbf{a}=\left(\begin{array}{c}a\\c\end{array}\right)$,
$\mathbf{b}=\left(\begin{array}{c}b\\d\end{array}\right)$ を並べたものと見て
$A=(\ \mathbf{a}\ \ \mathbf{b}\ )$
と表すことがしばしばある.同様に,その行列式は
$\det{A}=|\ \mathbf{a}\ \ \mathbf{b}\ |$
と表される.
このように,行列を何本かのベクトルを並べたものと見ることは重要で,
例えば,ベクトル
$\mathbf{x}=\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right)$ に対して $A\mathbf{x}$ を考えるとき
$\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right)
=x\left(\begin{array}{c}a\\c\end{array}\right)
+y\left(\begin{array}{c}b\\d\end{array}\right)$
すなわち
$(\ \mathbf{a}\ \ \mathbf{b}\ )\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right)=x\mathbf{a}+y\mathbf{b}$
と見るのである.
特に,例えば $\left|\begin{array}{cc}1&2\\3&6\end{array}\right|=0$ のように,
$\left(\begin{array}{c}a\\c\end{array}\right)$ と $\left(\begin{array}{c}b\\d\end{array}\right)$ が平行であるときは(どちらかが零ベクトルのときも含め)
$\left|\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right|=0$
となることに注目しよう.
平行な $2$ 本のベクトルは平行四辺形をつくれないので,このような状況は「面積 $0$」と考えることができる.
行・列の入れ替え
行列式に関する重要な性質として,まず行や列の入れ替えに関する性質を確認しておく:
-
行と列を入れ替えても行列式の値は変わらない.すなわち
$\left|\begin{array}{cc}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}a_{11}&a_{21}\\a_{12}&a_{22}\end{array}\right|$
が成り立つ.
ここで「行と列を入れ替える」というのは,第 $1$ 列を第 $1$ 行とし,第 $2$ 列を第 $2$ 行として新しい行列をつくるという意味である.
後述するが,一般に,行列 $A$ の行と列をこのようにして入れ替えて得られる行列を $A$ の
転置行列といい,${}^t\!A$ と表す.ここで言っているのは,$2\times 2$ 行列については
$\det{A}=\det{{}^t\!A}$
が成り立つということである.
-
列と列,あるいは行と行を入れ替えると符号が変わる.すなわち
$\left|\begin{array}{cc}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{array}\right|
=-\left|\begin{array}{cc}a_{12}&a_{11}\\a_{22}&a_{21}\end{array}\right|$
$\left|\begin{array}{cc}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{array}\right|
=-\left|\begin{array}{cc}a_{21}&a_{22}\\a_{11}&a_{12}\end{array}\right|$
が成り立つ.
-
同じ列(行)を持つ行列の行列式は $0$
いずれも計算してみれば成り立つことはすぐにわかるのではあるが,
以下に挙げることも含め,これらは $2$ 次の場合に限らない行列式一般の性質なのでここでしっかり意識しておきたい.
$\left|\begin{array}{cc}3&1\\4&2\end{array}\right|=2$であるが,この行列式の
行と列を入れ替えると
$\left|\begin{array}{cc}3&4\\1&2\end{array}\right|=2$
列と列を入れ替えると
$\left|\begin{array}{cc}1&3\\2&4\end{array}\right|=-2$
行と行を入れ替えると
$\left|\begin{array}{cc}4&2\\3&1\end{array}\right|=-2$
となる.
また,「同じ列(行)を持つ行列」としては,例えば
$\left|\begin{array}{cc}2&2\\3&3\end{array}\right|=0$,
$\left|\begin{array}{cc}2&3\\2&3\end{array}\right|=0$
当たり前だが重要な性質である.
$A=\left(\begin{array}{cc}23&18\\-39&25\end{array}\right)$ とする.$\det{A}$ と等しいものはどれか?また,$-\det{A}$ と等しいものはどれか?
$\mathrm{(a)}$ $\left|\begin{array}{cc}23&18\\25&-39\end{array}\right|$
$\mathrm{(b)}$ $\left|\begin{array}{cc}18&23\\25&-39\end{array}\right|$
$\mathrm{(c)}$ $\left|\begin{array}{cc}-39&25\\23&18\end{array}\right|$
$\mathrm{(d)}$ $\left|\begin{array}{cc}23&-39\\18&25\end{array}\right|$
$\det{A}$ と等しいのは $\mathrm{(d)}$
$-\det{A}$ と等しいのは $\mathrm{(b)}$ と $\mathrm{(c)}$.
線型性
行列式は各列,各行について線型である.
例えば,第 $1$ 列については
$\left|\begin{array}{cc}a_1&b_1\\a_2&b_2\end{array}\right|
+\left|\begin{array}{cc}c_1&b_1\\c_2&b_2\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}a_1+c_1&b_1\\a_2+c_2&b_2\end{array}\right|$
$k\left|\begin{array}{cc}a_1&b_1\\a_2&b_2\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}ka_1&b_1\\ka_2&b_2\end{array}\right|$ $(k\in\mathbf{R})$
が成り立つ.例によってこれらは
$k\left|\begin{array}{cc}a_1&b_1\\a_2&b_2\end{array}\right|
+l\left|\begin{array}{cc}c_1&b_1\\c_2&b_2\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}ka_1+lc_1&b_1\\ka_2+lc_2&b_2\end{array}\right|\\\hspace{150pt}(k,l\in\mathbf{R})$
と一つの式にまとめることができる
その他は?.
第 $2$ 列については
$k\left|\begin{array}{cc}a_1&b_1\\a_2&b_2\end{array}\right|
+l\left|\begin{array}{cc}a_1&c_1\\a_2&c_2\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}a_1&kb_1+lc_1\\a_2&kb_2+lc_2\end{array}\right|$
第 $1$ 行については
$k\left|\begin{array}{cc}a_1&a_2\\b_1&b_2\end{array}\right|
+l\left|\begin{array}{cc}c_1&c_2\\b_1&b_2\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}ka_1+lc_1&ka_2+lc_2\\b_1&b_2\end{array}\right|$
第 $2$ 行については
$k\left|\begin{array}{cc}a_1&a_2\\b_1&b_2\end{array}\right|
+l\left|\begin{array}{cc}a_1&a_2\\c_1&c_2\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}a_1&a_2\\kb_1+lc_1&kb_2+lc_2\end{array}\right|$
いずれも両辺をそれぞれ計算することで容易に確かめることができる.
あるいは,前項の行・列に関する入れ替えの規則を踏まえると,第 $1$ 列で成り立っているならば他の列や行でも成り立つという判断もできる.
第 $1$ 列に関する線型性により
$\left|\begin{array}{cc}11&1\\-9&2\end{array}\right|
+\left|\begin{array}{cc}-8&1\\12&2\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}3&1\\3&2\end{array}\right|
=3\left|\begin{array}{cc}1&1\\1&2\end{array}\right|
=3$
第 $2$ 行に関する線型性により
$\left|\begin{array}{cc}4&3\\26&17\end{array}\right|
-\left|\begin{array}{cc}4&3\\21&7\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}4&3\\5&10\end{array}\right|
=5\left|\begin{array}{cc}4&3\\1&2\end{array}\right|
=25$
ある操作(写像や演算)が
線型であるとは,
和やスカラー倍を操作前に行っても後に行っても同じ結果が得られることを言う.
例えば,$f$,$g$ が微分可能な実関数だとして,これらを「微分する」という操作は,$k,l\in\mathbf{R}$ に対して
$\dfrac{d}{dx}\{kf(x)+lg(x)\}=k\dfrac{df}{dx}(x)+l\dfrac{dg}{dx}(x)$
が成り立つから線型演算である.
和・スカラー倍を微分する前に行っても,それぞれ微分してから行っても同じだというわけである.
あるいは「積分する」という操作も
$\displaystyle \int\{kf(x)+lg(x)\}dx=k\int f(x)dx+l\int g(x)dx$
が成り立つから線型演算である.
しかし,「実数を $2$ 乗する」という操作は
$(kx+ly)^2=kx^2+ly^2$
が一般に成り立たないので線型ではない.
今の場合,和・スカラー倍を例えば第 $1$ 列のベクトルについて行ってから行列式を計算しても,行列式を計算してから和・スカラー倍を行っても結果は同じということである.
次の性質は,行列式の計算において極めて重要である:
-
ある列を何倍かして他の列に加えても行列式の値は変わらない
-
ある行を何倍かして他の行に加えても行列式の値は変わらない
このことは,上の線型性から容易に導くことができる
詳しく!.
例えば,行列式 $\left|\begin{array}{cc}a_1&b_1\\a_2&b_2\end{array}\right|$ の第 $1$ 列を $k$ 倍して第 $2$ 列に加えると,第 $2$ 列についての線型性により
$\left|\begin{array}{cc}a_1&b_1+ka_1\\a_2&b_2+ka_2\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}a_1&b_1\\a_2&b_2\end{array}\right|+
\left|\begin{array}{cc}a_1&ka_1\\a_2&ka_2\\\end{array}\right|\\
\hspace{63pt}=\left|\begin{array}{cc}a_1&b_1\\a_2&b_2\end{array}\right|+
k\left|\begin{array}{cc}a_1&a_1\\a_2&a_2\\\end{array}\right|\\
\hspace{63pt}=\left|\begin{array}{cc}a_1&b_1\\a_2&b_2\end{array}\right|
$
となることがわかる.他の列・行についても同様.
メモ書きとして,「第 $i$ 列を $k$ 倍して第 $j$ 列に加える」ことを
$[\,\mathrm{c_i\stackrel{\times k}{\to} c_j}\,]$
と,「第 $i$ 行を $k$ 倍して第 $j$ 行に加える」ことを
$[\,\mathrm{r_i\stackrel{\times k}{\to} r_j}\,]$
と書くことにする.例えば
$\left|\begin{array}{cc}14&-29\\8&-15\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}14&-1\\8&1\end{array}\right|\qquad[\,\mathrm{c_1\stackrel{\times 2}{\to} c_2}\,]\\
\hspace{47pt}=\left|\begin{array}{cc}22&0\\8&1\end{array}\right|\qquad[\,\mathrm{r_2\stackrel{\times 1}{\to} r_1}\,]\\
\hspace{47pt}=22$
まず第 $1$ 列を $2$ 倍して第 $2$ 列に加え,
次に第 $2$ 行を第 $1$ 行に加えている.
同様に
$\left|\begin{array}{cc}46&15\\67&22\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}1&15\\1&22\end{array}\right|\qquad[\,\mathrm{c_2\stackrel{\times (-3)}{\to} c_1}\,]\\
\hspace{40pt}=\left|\begin{array}{cc}1&15\\0&7\end{array}\right|\qquad[\,\mathrm{r_1\stackrel{\times (-1)}{\to} r_2}\,]\\
\hspace{40pt}=7$
まず第 $2$ 列を $3$ 倍して第 $1$ 列から引き,
次に第 $1$ 行を第 $2$ 行から引いている.
もちろん他の変形の仕方も考えられるが,
できるだけ楽になるよう要領よく計算したい.
積の行列式
積の行列式は行列式の積に等しい.すなわち
$\det{(AB)}=\det{A}\det{B}$
が成り立つ.
このことは上に挙げた性質ほど明らかとは言えないが,やはり両辺を計算することによって確かめられる
詳しく!.
とは言っても,以下に見るようにあまり見通しのよい計算にはならない.
$\left|\begin{array}{cc}a_{11}b_{11}+a_{12}b_{21}&a_{11}b_{12}+a_{12}b_{22}\\a_{21}b_{11}+a_{22}b_{21}&a_{21}b_{12}+a_{22}b_{22}\end{array}\right|\\[3mm]
\hspace{20pt}=(a_{11}b_{11}+a_{12}b_{21})(a_{21}b_{12}+a_{22}b_{22})\\[1mm]
\hspace{50pt}-(a_{11}b_{12}+a_{12}b_{22})(a_{21}b_{11}+a_{22}b_{21})\\[1mm]
\hspace{20pt}=a_{11}a_{22}b_{11}b_{22}+a_{12}a_{21}b_{12}b_{21}\\[1mm]
\hspace{50pt}-a_{11}a_{22}b_{12}b_{21}-a_{12}a_{21}b_{11}b_{22}\\[1mm]
\hspace{20pt}=(a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21})(b_{11}b_{22}-b_{12}b_{21})\\[1mm]
\hspace{20pt}=\left|\begin{array}{cc}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{array}\right|
\left|\begin{array}{cc}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{array}\right|$
次元が上がるとこのような直接の計算はとてもやってられなくなるが,
一般的な議論を理解するための手掛かりは得てしてこういう地道な計算だったりする.
この性質から導かれる重要な事実をいくつか挙げておく(以下において,$A$,$B$ は任意の実 $2\times 2$ 行列である):
-
$A$ が正則ならば $\det{(A^{-1})}=\dfrac{1}{\det{A}}$ である
なぜ?
$A^{-1}A=E$ より $\det{(A^{-1})}\det{A}=\det(A^{-1}A)=\det{E}=1$.
-
$A$,$B$ がともに正則ならば積 $AB$ も正則であるなぜ?
$\det{A}\neq0$,$\det{B}\neq0$ ならば $\det{(AB)}=\det{A}\det{B}\neq0$.
-
$A$,$B$ のどちらかが正則でないならば積 $AB$ も正則でないなぜ?
例えば $\det{A}=0$ ならば $\det{(AB)}=\det{A}\det{B}=0$.
-
ベクトル $\mathbf{a}$,$\mathbf{b}$ がつくる平行四辺形の面積を $S$ をとすると,
ベクトル $A\mathbf{a}$,$A\mathbf{b}$ がつくる平行四辺形の面積は $|\det{A}|S$ である
なぜ?
$\mathbf{a}'=A\mathbf{a}$,$\mathbf{b}'=A\mathbf{b}$ とおくと,
$(\ \mathbf{a}'\ \ \mathbf{b}'\ )
=(\ A\mathbf{a}\ \ A\mathbf{b}\ )
=A(\ \mathbf{a}\ \ \mathbf{b}\ )$
であるから
詳しく!.
二つの式
$\left(\begin{array}{c}p_1\\p_2\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right)$
$\left(\begin{array}{c}q_1\\q_2\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}y_1\\y_2\end{array}\right)$
は
$\left(\begin{array}{cc}p_1&q_1\\p_2&q_2\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right)
\left(\begin{array}{cc}x_1&y_1\\x_2&y_2\end{array}\right)$
と一つにまとめられるのであった.
$\det(\ \mathbf{a}'\ \ \mathbf{b}'\ )
=\det{A}\cdot\det(\ \mathbf{a}\ \ \mathbf{b}\ )$
よって両辺の絶対値をとれば
$\big|\,\det(\ \mathbf{a}'\ \ \mathbf{b}'\ )\,\big|
=|\det{A}|\cdot\big|\,\det(\ \mathbf{a}\ \ \mathbf{b}\ )\,\big|=|\det{A}|S$
となる.
また,一般には行列式の性質だけから導かれるわけではないが,次のことにも注意しておこう.
-
$B$ が正則ならば $\mathrm{rank}(AB)=\mathrm{rank}(BA)=\mathrm{rank}A$.すなわち,正則行列を掛けても行列の階数は変わらない詳しく!
例えば,$A=\left(\begin{array}{cc}1&2\\2&4\end{array}\right)$,$B=\left(\begin{array}{cc}1&-1\\2&1\end{array}\right)$ とすると,$\det{B}=3$ より $B$ は正則であって
$\mathrm{Im}f_A=\left\langle\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)\right\rangle=\left\{\left.\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)\ \right|\ t\in\mathbf{R}\,\right\}$
より $\mathrm{rank}A=1$.
積 $AB$,$BA$ は
$AB=\left(\begin{array}{cc}1&2\\2&4\end{array}\right)
\left(\begin{array}{cc}1&2\\-1&1\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{cc}-1&4\\-2&8\end{array}\right)$
$BA=
\left(\begin{array}{cc}1&2\\-1&1\end{array}\right)
\left(\begin{array}{cc}1&2\\2&4\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{cc}5&10\\1&2\end{array}\right)$
となるので
$\mathrm{Im}f_{AB}
=\left\langle\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)\right\rangle$,
$\mathrm{Im}f_{BA}
=\left\langle\left(\begin{array}{c}5\\1\end{array}\right)\right\rangle$
従って確かに $\mathrm{rank}(AB)=\mathrm{rank}(BA)=1$ である.
このことは,$\det{A}=0$ だから $\det{(AB)}=\det{(BA)}=0$,さらに,$A\neq O$ かつ $B$ が正則であることから $AB\neq O$,$BA\neq O$ であることを考えると当然成り立つべき結果である.
さらに詳しく!
一つ上で挙げた「平行四辺形の面積は行列 $A$ によって $\det{A}$ (の絶対値)倍される」という事実は,行列,あるいは線型写像というものを考える上で大変に示唆に富んでいる.
引き続き
$A=\left(\begin{array}{cc}1&2\\2&4\end{array}\right)$,$B=\left(\begin{array}{cc}1&-1\\2&1\end{array}\right)$ の場合を考えよう.
$\det{A}=0$ であり
$\mathrm{Im}f_A=\left\langle\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)\right\rangle$
ということは,$\mathbf{R}^2$ のすべてのベクトルは $A$ によって $\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)$ と平行なベクトルに移されるということで,
従って,$A\mathbf{a}$,$A\mathbf{b}$ と表されるいかなるベクトルも(平行なのだから)平行四辺形をつくることはできない.$\mathbf{a}$,$\mathbf{b}$ がつくっていたであろう平行四辺形の面積は $\det{A}$ 倍,すなわち「$0$ 倍」されるというわけである.
改めて $\mathrm{Im}f_A$ の意味を考えてみると,この行列 $A$ は $2$ 次元空間である全空間 $\mathbf{R}^2$ を $1$ 次元空間 $\left\langle\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)\right\rangle$ に「潰してしまう」(だから当然あらゆる平行四辺形も潰されてしまう).$xy$ 平面上の点とその位置ベクトルを同一視する観点からは「平面全体を直線に潰してしまう」と言ってもよい.
一方,
$\det{B}=3(\neq0)$ であり
$\mathrm{Im}f_B
=\left\langle\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right),\left(\begin{array}{c}-1\\1\end{array}\right)\right\rangle=\mathbf{R}^2$
より $\mathrm{rank}B=2$ である.
任意の平行四辺形の面積はこの $B$ により $3$ 倍されるということだが,特に,どの平行四辺形も決して「面積 $0$」に潰されることはない.
$\mathrm{Im}f_B=\mathbf{R}^2$ ということは,$B$ は全空間 $\mathbf{R}^2$ を全空間 $\mathbf{R}^2$ に移す(あるいは,$xy$ 平面全体を $xy$ 平面全体に移す)ことを意味する.
かくして,積 $AB$ を考えると,まず $B$ によって全空間 $\mathbf{R}^2$ は全空間 $\mathbf{R}^2$ に移され,さらに $A$ によって $1$ 次元空間 $\left\langle\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)\right\rangle$ に移される.
積 $BA$ の場合は,まず $A$ によって全空間は $1$ 次元空間 $\left\langle\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)\right\rangle$ に移され,その $1$次元空間は $B$ によって(潰されることなく)やはり $1$ 次元空間である $\left\langle\left(\begin{array}{c}5\\1\end{array}\right)\right\rangle$ に移されることになる.
いずれの場合も,$B$ が正則である(空間を潰さない)ために
$\mathrm{rank}(AB)=\mathrm{rank}(BA)=\mathrm{rank}{A}$
が成り立っているというのが結論である.
Cramerの公式
2元連立一次方程式
$\left\{\begin{array}{l}ax+by=p\\cx+dy=q\end{array}\right.$
は行列とベクトルで
$\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{c}p\\q\end{array}\right)$
と表すことができるのであった.
このとき,係数行列 $\left(\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right)$ が正則ならば(逆行列をもつので)方程式は一意に解をもつが,その解は行列式を用いて
$
x=\dfrac{\left|\begin{array}{cc}p&b\\q&d\end{array}\right|}
{\left|\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right|}
$,
$
y=\dfrac{\left|\begin{array}{cc}a&p\\c&q\end{array}\right|}
{\left|\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right|}
$
により与えられるというのが
Cramerの公式と呼ばれているものである
詳しく!.
$p=ax+by$,$q=cx+dy$ のとき,行列式の第 $1$ 列に関する線型性により
$\left|\begin{array}{cc}p&b\\q&d\end{array}\right|
=\left|\begin{array}{cc}ax+by&b\\cx+dy&d\end{array}\right|\\[1mm]
\hspace{30pt}=\left|\begin{array}{cc}ax&b\\cx&d\end{array}\right|
+\left|\begin{array}{cc}by&b\\dy&d\end{array}\right|\\[1mm]
\hspace{30pt}
=x\left|\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right|
+y\left|\begin{array}{cc}b&b\\d&d\end{array}\right|\\[1mm]
\hspace{30pt}
=x\left|\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right|$
となり,
$\left|\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right|\neq0$ ならば
$x={\left|\begin{array}{cc}p&b\\q&d\end{array}\right|}\,\Big/\,
{\left|\begin{array}{cc}a&b\\c&d\end{array}\right|}
$ が得られる.$y$ についても同様.
連立一次方程式
$\left\{\begin{array}{l}2x-3y=1\\5x+2y=3\end{array}\right.$
は
$\left(\begin{array}{cc}2&-3\\5&2\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{c}1\\3\end{array}\right)$
と表せるが,その解は $\left|\begin{array}{cc}2&-3\\5&2\end{array}\right|=19$
より
$x=\dfrac{1}{19}\left|\begin{array}{cc}1&-3\\3&2\end{array}\right|=\dfrac{11}{19}$
$y=\dfrac{1}{19}\left|\begin{array}{cc}2&1\\5&3\end{array}\right|=\dfrac{1}{19}$
と求まる.
この公式は一般に $n$ 元連立一次方程式の場合でも同様に成り立つ.例えば $n=3$ の場合なら
$\left(\begin{array}{ccc}a_{11}&a_{12}&a_{13}\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}x\\y\\z\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{c}p\\q\\r\end{array}\right)$
という連立一次方程式の解は(係数行列が正則ならば),行列式を用いて
$
x=\dfrac{\left|\begin{array}{ccc}p&a_{12}&a_{13}\\q&a_{22}&a_{23}\\r&a_{32}&a_{33}\end{array}\right|}
{\left|\begin{array}{ccc}a_{11}&a_{12}&a_{13}\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}\end{array}\right|}
$
$
y=\dfrac{\left|\begin{array}{ccc}a_{11}&p&a_{13}\\a_{21}&q&a_{23}\\a_{31}&r&a_{33}\end{array}\right|}
{\left|\begin{array}{ccc}a_{11}&a_{12}&a_{13}\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}\end{array}\right|}
$
$
z=\dfrac{\left|\begin{array}{ccc}a_{11}&a_{12}&p\\a_{21}&a_{22}&q\\a_{31}&a_{32}&r\end{array}\right|}
{\left|\begin{array}{ccc}a_{11}&a_{12}&a_{13}\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}\end{array}\right|}
$
により与えられる.$3$ 次以上の行列式の計算法は後述するが,この表式から予想されるように,$n$ が大きくなると計算量が膨大になりあまり実用的な公式とは言えない.しかしそれはともかくとして,なぜこのようなことが成り立つかを見ておくのは,上で見た行列式の性質を確認するよい練習となるであろう