線型代数

第6講 対称群と行列式

置換 $n$ を$2$ 以上の自然数とするとき,集合 $\{\,1,2,\ldots,n\,\}$ から集合 $\{\,1,2,\ldots,n\,\}$ への全単射 $\sigma$ を $n$ 次の置換といい,
$\sigma=\left(\begin{array}{cccc}1&2&\cdots&n\\ \sigma(1)&\sigma(2)&\cdots&\sigma(n)\end{array}\right)$
と表す.
二つの置換 $\sigma$,$\tau$ の $\sigma\tau$ は合成写像 $\sigma\circ\tau$ として定義される.異なる次数の積は定義されない.また,逆元 $\sigma^{-1}$,$\tau^{-1}$ はそれぞれの逆写像である.
置換の符号 置換 $\sigma$ の転倒数とは
$i < j $ かつ $\sigma(i) > \sigma(j)$
を満たす組 $(i,j)$ の個数のことをいい, 転倒数が偶数である置換を偶置換,奇数である置換を奇置換という. 置換 $\sigma$ の符号 $\mathrm{sign}(\sigma)$ は
$\mathrm{sign}(\sigma)=\left\{\begin{array}{ll}1&\mbox{($\sigma$ が偶置換のとき)}\\-1&\mbox{($\sigma$ が奇置換のとき)}\end{array}\right.$
で定義される.
対称群 すべての $n$ 次の置換からなる集合を $n$ 次の対称群といい,$S_n$ で表す.
$x_1,x_2,\ldots,x_n$ を変数とする式(多項式など) $f(x_1,x_2,\ldots,x_n)$ が与えられたとき,この式の変数を互いに入れ替えたものすべての和
$\displaystyle \sum_{\sigma\in S_n}f(x_{\sigma(1)},x_{\sigma(2)},\ldots,x_{\sigma(n)})$
を考えることがしばしばある.置換の符号も考慮した
$\displaystyle \sum_{\sigma\in S_n}\mathrm{sign}(\sigma)f(x_{\sigma(1)},x_{\sigma(2)},\ldots,x_{\sigma(n)})$
という操作もよく行われる.
行列式 $n$ を $2$ 以上の自然数とするとき,実 $n$ 次正方行列 $A=(a_{ij})$ の行列式 $\det{A}$ は
$\displaystyle \det{A}=\sum_{\sigma\in S_n}\mathrm{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{n\sigma(n)}$
により定義される.
対称群 $S_n$ は $n!$ 個の置換からなる集合であるから,次数 $n$ が大きくなると行列式を上の定義通りに計算することは現実的でなくなってくる. 一般的な計算法は次講で詳しく見ることにして,今回は第 $1$ 行が $(1,1)$ 成分を除いてすべて $0$ という,特別な形の行列式の計算の様子を観察しておこう. 例えば $3$ 次の場合は
$ \left|\begin{array}{ccc}a_{11}&0&0\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}\\\end{array}\right| = a_{11}a_{22}a_{33} -a_{11}a_{23}a_{32}\\ \hspace{65pt}= a_{11}\left|\begin{array}{cc}a_{22}&a_{23}\\a_{32}&a_{33}\end{array}\right| $
となっている.$4$ 次の場合も,定義式と見比べて
$ \left|\begin{array}{cccc}a_{11}&0&0&0\\a_{21}&a_{22}&a_{23}&a_{24}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}&a_{34}\\a_{41}&a_{42}&a_{43}&a_{44}\\\end{array}\right| = a_{11}\left|\begin{array}{cc}a_{22}&a_{23}&a_{24}\\a_{32}&a_{33}&a_{34}\\a_{42}&a_{43}&a_{44}\end{array}\right| $
が成り立つことがわかる 詳しく! 同様のことが $5$ 次以上でも成り立つことは,これらの様子を踏まえて定義式を再度見ることで確認できるであろう.