線型代数

第12講 掃き出し法

掃き出し法による連立一次方程式の解法 行列に対する次の操作は行基本変形と呼ばれる: この行基本変形を利用して連立一次方程式を解く方法が掃き出し法である. 連立一次方程式
$A\mathbf{x}=\mathbf{b}$
が与えられたとき,係数行列 $A$ に右辺のベクトル $\mathbf{b}$ を付け加えて得られる行列 $(\,A\,|\,\mathbf{b}\,)$ を拡大係数行列というが,この拡大係数行列に行基本変形を施して
$(\,A\,|\,\mathbf{b}\,)\to\cdots\to(\,E\,|\,\mathbf{b}'\,)$
という形が得られれば,$\mathbf{x}=\mathbf{b}'$ がこの方程式の解ということになる.
 一般に,連立一次方程式の解は一意とは限らないし,解をもたない場合もある. 従って,拡大係数行列を常に $(\,E\,|\,\mathbf{b}'\,)$ という形に変形できるわけではない. 例えば
$\left\{\begin{array}{l}x+y+z=1\\x+2y+3z=-1\\2x+5y+8z=-4\end{array}\right.$
の場合は
$\left(\begin{array}{ccc|c}1&1&1&1\\1&2&3&-1\\2&5&8&-4\end{array}\right)\\[1mm] \hspace{20pt}\to \left(\begin{array}{ccc|c}1&1&1&1\\0&1&2&-2\\0&3&6&-6\end{array}\right) \ \begin{array}{l} [\,\mathrm{r_1\stackrel{\times (-1)}{\to}r_2}\,]\\ [\,\mathrm{r_1\stackrel{\times (-2)}{\to}r_3}\,] \end{array}\\[1mm] \hspace{20pt}\to \left(\begin{array}{ccc|c}1&0&-1&3\\0&1&2&-2\\0&0&0&0\end{array}\right) \ \begin{array}{l} [\,\mathrm{r_2\stackrel{\times (-1)}{\to}r_1}\,]\\ [\,\mathrm{r_2\stackrel{\times (-3)}{\to}r_3}\,] \end{array}$
となり,右辺を単位行列の形にするのは不可能である.ここで $x,y,z$ の式に戻すと
$\left\{\begin{array}{l}x-z=3\\y+2z=-2\end{array}\right.$
となっているので,$z=t$ とおいて,解は
$\left(\begin{array}{c}x\\y\\z\end{array}\right) =\left(\begin{array}{c}3+t\\-2-2t\\t\end{array}\right) =\left(\begin{array}{c}3\\-2\\0\end{array}\right) +t\left(\begin{array}{c}1\\-2\\1\end{array}\right)$
と表わされる.この $t\in\mathbf{R}$ は任意定数であって,自由変数と呼ばれる. 解を表すのに必要な自由変数の数を解の自由度といい,今の例では解の自由度は $1$ である.また,適切な数の自由変数を用いて表された解をこの方程式の一般解という.
また
$\left\{\begin{array}{l}x+y+z=1\\x+2y+3z=-1\\2x+5y+8z=-2\end{array}\right.$
だと
$\left(\begin{array}{ccc|c}1&1&1&1\\1&2&3&-1\\2&5&8&-2\end{array}\right)$$\to \cdots \to \left(\begin{array}{ccc|c}1&0&-1&3\\0&1&2&-2\\0&0&0&2\end{array}\right) $
となり,第 $3$ 行は $0=2$ となっているのでこれは不可能である.すなわちこのような場合は解は存在しない.
掃き出し法による逆行列の計算 逆行列を求めることも,いくつかの連立一次方程式を解くことだと考えられる. 例えば,$3\times 3$ の場合は
$\mathbf{e}_1=\left(\begin{array}{c}1\\0\\0\end{array}\right)$, $\mathbf{e}_2=\left(\begin{array}{c}0\\1\\0\end{array}\right)$, $\mathbf{e}_3=\left(\begin{array}{c}0\\0\\1\end{array}\right)$
とおけば,与えられた $3\times3$ 行列 $A$ に対して $AX=E$ を満たす行列 $X$ を求めることは,三つの連立一次方程式
$A\mathbf{x}=\mathbf{e}_1$, $A\mathbf{x}=\mathbf{e}_2$, $A\mathbf{x}=\mathbf{e}_3$
をそれぞれ解くことと同じである詳しく! 従って,行基本変形により
$(\,A\,|\,\mathbf{e}_1\ \mathbf{e}_2\ \mathbf{e}_3\,) \to\cdots\to(\,E\,|\,\mathbf{b}_1\ \mathbf{b}_2\ \mathbf{b}_3\,)$
という形が得られれば,$A$ の逆行列が $A^{-1}=(\,\mathbf{b}_1\ \mathbf{b}_2\ \mathbf{b}_3\,)$ と求まったことになる.