線型代数

第18講 直交補空間と直交射影

直交補空間 $(V,(\cdot,\cdot))$ を $K(=\mathbf{R}\ \mathrm{or}\ \mathbf{C})$ をスカラーとする内積空間とする. すなわち,$V$ は内積
$(\mathbf{v},\mathbf{v}'),\quad\mathbf{v},\mathbf{v}'\in V$
が定義されたベクトル空間である. $W$ を $V$ の部分空間とするとき
$W^\bot\stackrel{\mathrm{def}}{=}\{\,\mathbf{v}\in V\,|\,(\mathbf{v},\mathbf{w})=0,\ \forall\mathbf{w}\in W\,\}$
により定義される部分空間 $W^\bot$ を $W$ の直交補空間という. すなわち, $W^\bot$ は $W$ のすべてのベクトルと直交するようなベクトルの集合である.
 $W=\langle\,\mathbf{w}_1,\mathbf{w}_2,\ldots,\mathbf{w}_m\,\rangle$ と表わされているときは
$W^\bot=\{\,\mathbf{v}\in V\,|\,(\mathbf{v},\mathbf{w}_1)=(\mathbf{v},\mathbf{w}_2)=\cdots=(\mathbf{v},\mathbf{w}_m)=0\,\}$
となる詳しく! 一般に $(W^\bot)^\bot=W$ が成り立つことに注意すると,逆に
$W=\{\,\mathbf{v}\in V\,|\,(\mathbf{v},\mathbf{u}_1)=(\mathbf{v},\mathbf{u}_2)=\cdots=(\mathbf{v},\mathbf{u}_l)=0\,\}$
と表わされているときは $W^\bot=\langle\,\mathbf{u}_1,\mathbf{u}_2,\ldots,\mathbf{u}_l\,\rangle$ となることがわかる.
直交射影 前節の注意3で見たように,すべての $\mathbf{v}\in V$ は
$\mathbf{v}=\mathbf{w}+\mathbf{w}^\bot\quad(\mathbf{w}\in W,\ \mathbf{w}^\bot\in W^\bot)$
と一意的に表されるが,各 $\mathbf{v}$ に対してこの $\mathbf{w}$ を対応させる線型写像を $V$ から $W$ への直交射影といい,$f_{P_W}$ と表わす. $W$ の正規直交基底を $\{\,\mathbf{u}_1,\mathbf{u}_2,\ldots,\mathbf{u}_m\,\}$ とすると
$f_{P_W}(\mathbf{v})=(\mathbf{v},\mathbf{u}_1)\mathbf{u}_1+(\mathbf{v},\mathbf{u}_2)\mathbf{u}_2+\cdots+(\mathbf{v},\mathbf{u}_m)\mathbf{u}_m$
である(前節注意3参照). このことから $f_{P_W}$ が確かに線型写像であることがわかる.
 $V=\mathbf{R}^n$ (内積はドット積)の場合は $f_{P_W}$ は実行列で表されるから,その行列を $P_W$ と書くことにしよう.このとき,$P_W$ は $W$ の正規直交基底 $\{\,\mathbf{u}_1,\mathbf{u}_2,\ldots,\mathbf{u}_m\,\}$ により
$P_W=\mathbf{u}_1{}^t\mathbf{u}_1+\mathbf{u}_2{}^t\mathbf{u}_2+\cdots+\mathbf{u}_m{}^t\mathbf{u}_m$
で与えられる 詳しく!