線型代数

第22講 直交行列

$2$ 次の直交行列 実行列 $T$ が直交行列であるとは
${}^tTT=T^tT=E$
が成り立つことをいうのであった. 特に,$2$ 次の直交行列は
$\left(\begin{array}{cc}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{array}\right)$ または $\left(\begin{array}{cc}\cos\theta&\sin\theta\\\sin\theta&-\cos\theta\end{array}\right),\quad \theta\in(-\pi,\pi]$
という形で表される詳しく! $xy$ 平面において,前者は原点を中心とした角 $\theta$ の回転移動を,後者は直線 $y=\big(\tan\frac{\theta}{2}\big)\,x$ ($\theta=\pi$ のときは $y$ 軸) に関する対称移動を表す 詳しく!
座標変換と基底の変換 前節では $\mathbf{R}^2$ のベクトルと $xy$ 平面上の点とを同一視するということを断りなく行ったが,ここでこのことについてきちんと考えておこう.
 例えば,$\mathbf{R}^2$ のベクトル $\left(\begin{array}{c}2\\3\end{array}\right)$ を $xy$ 平面上の点 $(2,3)$ と同一視するのは自然なことだと思われるが,このことを基底をはっきり意識して
$\left(\begin{array}{c}2\\3\end{array}\right)=2\mathbf{e}_1+3\mathbf{e}_2\quad \leftrightarrow\quad (2,3)$
と表すことにする.ここで,$\{\mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2\}=\left\{\,\left(\begin{array}{c}1\\0\end{array}\right),\left(\begin{array}{c}0\\1\end{array}\right)\,\right\}$ は $\mathbf{R}^2$ の標準基底である.何が言いたいのかというと,ベクトルを座標平面(座標空間)上の点として表すというのは,そのベクトルを基底の線型結合として表すことであり,従ってその表し方は基底に依存するということである.もし基底を $\{\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2\}=\left\{\,\left(\begin{array}{c}-1\\2\end{array}\right),\left(\begin{array}{c}3\\1\end{array}\right)\,\right\}$ ととったならば
$\left(\begin{array}{c}2\\3\end{array}\right)=\mathbf{a}_1+\mathbf{a}_2\quad \leftrightarrow\quad (1,1)$
という対応になり,この場合はベクトル $\left(\begin{array}{c}2\\3\end{array}\right)$ は点 $(1,1)$ と同一視されることになる.
 上記を踏まえて,直交行列 $T$ によるベクトルの変換
$\left(\begin{array}{c}x'\\y'\end{array}\right)=T\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right)$
を考える.前節のように,これは点 $(x,y)$ が点 $(x',y')$ に移動したと考えてよいのだが,これを( $T^{-1}={}^tT$ に注意して)
${}^tT\left(\begin{array}{c}x'\\y'\end{array}\right)=\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right)$
と書き直し,さらに $(\mathbf{u}_1\ \mathbf{u}_2)=(\mathbf{e}_1\ \mathbf{e}){}^tT$ とおくと
$(\mathbf{u}_1\ \mathbf{u}_2)\left(\begin{array}{c}x'\\y'\end{array}\right)=(\mathbf{e}_1\ \mathbf{e})\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right)$
すなわち
$x'\mathbf{u}_1+y'\mathbf{u}_2=x\mathbf{e}_1+y\mathbf{e}_2$
という関係が得られる.点は動いていないが,$T$ (の逆行列)によって基底が変換されたためにその座標が $(x,y)$ から $(x',y')$ に変化したのだという見方である.例えば,回転を表す行列 $\left(\begin{array}{c}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{array}\right)$ は,点を $\theta$ だけ回転させるとも言えるし,点は動かさずに基底を(すなわち座標軸を) $-\theta$ だけ回転させるのだと言うこともできるのである.
二次形式 $n$ 次対称行列 $A$ により
${}^t\mathbf{x}A\mathbf{x}\quad(\mathbf{x}\in\mathbf{R}^n)$
と表わされる式を二次形式という.成分で表すと
$\displaystyle {}^t\mathbf{x}A\mathbf{x}=\sum_{i=1}^na_{ii}{x_i}^2+2\sum_{i < j}a_{ij}x_ix_j$
という形になる(すべて2次の項なので「二次形式」である)が,適当な変数変換を行うことにより
$\displaystyle {}^t\mathbf{x}A\mathbf{x}=\sum_{k=1}^n\alpha_k{x_k'}^2$
と表わすことができる詳しく!