線型代数

第8講 余因子と逆行列

余因子  正方行列 $A=(a_{ij})$ の第 $i$ 行と第 $j$ 列を取り除いた行列を $A_{ij}$ と表すとき,$A$ の $(i,j)$ 余因子 $\tilde{a}_{ij}$ は
$\tilde{a}_{ij}\stackrel{\mathrm{def}}{=}(-1)^{i+j}\det{A_{ij}}$
により定義される.
余因子行列と逆行列 余因子と行列式との間には
$a_{i1}\tilde{a}_{j1}+a_{i2}\tilde{a}_{j2}+\cdots+a_{in}\tilde{a}_{jn} =\left\{\begin{array}{ll}\det{A}&\mbox{if $i=j$}\\ 0&\mbox{if $i\neq j$}\end{array}\right.$
$a_{1i}\tilde{a}_{1j}+a_{2i}\tilde{a}_{2j}+\cdots+a_{ni}\tilde{a}_{nj} =\left\{\begin{array}{ll}\det{A}&\mbox{if $i=j$}\\ 0&\mbox{if $i\neq j$}\end{array}\right.$
という関係がある証明pdf. この関係を踏まえて,$n\times n$ 行列 $A=(a_{ij})$ の余因子行列を $\tilde{A}={}^t(\tilde{a}_{ij})$ により定義する.すなわち
$A=\left(\begin{array}{cccc}a_{11}&a_{12}&\cdots&a_{1n}\\a_{21}&a_{22}&\cdots&a_{2n}\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\a_{n1}&a_{n2}&\cdots&a_{nn}\\\end{array}\right)$
ならば
$\tilde{A}=\left(\begin{array}{cccc}\tilde{a}_{11}&\tilde{a}_{21}&\cdots&\tilde{a}_{n1}\\\tilde{a}_{12}&\tilde{a}_{22}&\cdots&\tilde{a}_{n2}\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\\tilde{a}_{1n}&\tilde{a}_{2n}&\cdots&\tilde{a}_{nn}\\\end{array}\right)$
である.番号の付き方に特に注意しよう.余因子行列においては $(i,j)$ 余因子 $\tilde{a}_{ij}$を $(j,i)$ の位置に配置するのである. このように定義された余因子行列は
$A\tilde{A}=\tilde{A}A=(\det{A})E$
を満たすので,$\det{A}\neq0$ ならば $A$ の逆行列 $A^{-1}$ が存在して
$A^{-1}=\dfrac{1}{\det{A}}\tilde{A}$
となる.
行列式の余因子展開 前節で見たように,余因子と行列式との間には
$\det{A}=a_{i1}\tilde{a}_{i1}+a_{i2}\tilde{a}_{i2}+\cdots+a_{in}\tilde{a}_{in}\\[1mm] \hspace{23pt}=a_{1j}\tilde{a}_{1j}+a_{2j}\tilde{a}_{2j}+\cdots+a_{nj}\tilde{a}_{nj}$
という関係がある.行列式をこのように計算することを,それぞれ第 $i$ 行,第 $j$ 列に関する余因子展開という. 行列式の計算は,前講までの方法ですべての場合に対応できるが, 余因子展開という見方をすると,より柔軟な計算が可能になる.
もちろん行列式の性質
ある列(行)を何倍かして他の列(行)に加えても行列式の値は変わらない
ということを利用して,適切な形に変形してから余因子展開を用いるのがよい. 前講で見た「第 $1$ 行または第 $1$ 列の $(1,1)$ 成分以外をすべて $0$ にする」という基本方針は,実は余因子展開を利用する特別な場合なのであった.