線型代数

第9講 実数ベクトル空間

ベクトル空間$\mathbf{R}^n$ $2$ 次元実数ベクトルが二つの実数の組であったのと同様に,$n$ 個の実数 $x_1,x_2,\ldots,x_n$ の組 $\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\\\vdots\\x_n\end{array}\right)$ を $n$ 次元実数ベクトルと呼び,これらをすべて集めた集合
$\mathbf{R}^n=\left\{\left.\, \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\\\vdots\\x_n\end{array}\right)\ \right|\ x_1,x_2,\ldots,x_n\in\mathbf{R}\ \right\}$
を $n$ 次元実数ベクトル空間という. 実数ベクトルは単なる実数の組というだけでなく, 和
$\left(\begin{array}{c}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{array}\right)+\left(\begin{array}{c}b_1\\b_2\\\vdots\\b_n\end{array}\right) =\left(\begin{array}{c}a_1+b_1\\a_2+b_2\\\vdots\\a_n+b_n\end{array}\right)$
およびスカラー倍
$k\left(\begin{array}{c}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{array}\right) =\left(\begin{array}{c}ka_1\\ka_2\\\vdots\\ka_n\end{array}\right) ,\quad k\in\mathbf{R}$
が定義されている. 一般に,「ベクトル空間」とは,このように和とスカラー倍という演算が定義されている集合のことを指す詳しく!pdf
一次独立と一次従属 ベクトル $\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n$ およびスカラー $t_1,t_2,\ldots,t_n$ により
$t_1\mathbf{a}_1+t_2\mathbf{a}_2+\cdots+t_n\mathbf{a}_n$
と表わされるベクトルを $\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n$ の一次結合(線型結合) というが,非自明な線型結合で零ベクトル $\mathbf{0}$ を表せないとき,すなわち
$t_1\mathbf{a}_1+t_2\mathbf{a}_2+\cdots+t_n\mathbf{a}_n=\mathbf{0}$ となるのは $t_1=t_2=\cdots=t_n=0$ のときに限る
とき,ベクトルの組 $\{\,\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n\,\}$ は一次独立(線型独立)であるという. 一次独立でないベクトルの組は一次従属(線型従属)であるという.
 ベクトルの一次独立性について,まず次のことを確認しておこう:
基底と次元 ベクトルの組 $\{\,\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n\,\}$ がベクトル空間 $V$ の基底であるとは,次の二つの条件を満たすことをいう. 基底を構成するベクトルの本数のことを $V$ の次元といい,$\mathrm{dim}V$ で表す.
 今更ながら,$\mathrm{dim}\mathbf{R}^n=n$,すなわち,$\mathbf{R}^n$ は $n$ 次元空間である. その正確な意味は,$\mathbf{R}^n$ の基底が $n$ 本のベクトルからなるということであって,特に
$\mathbf{R}^n$ の一次独立な $n$ 本のベクトルからなる組 $\{\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n\}$ はすべて $\mathbf{R}^n$ の基底である証明pdf
$\mathbf{R}^n$の部分空間 $W$ が $\mathbf{R}^n$ の部分集合であって,$W$ 自体もベクトル空間となっているとき,すなわち
$\mathrm{(i)}$ $\mathbf{a},\ \mathbf{b}\in W\ \Rightarrow \mathbf{a}+\mathbf{b}\in W$
$\mathrm{(ii)}$ $\mathbf{a}\in W,\ k\in\mathbf{R}\ \Rightarrow k\mathbf{a}\in W$
が成り立つとき, $W$ を $\mathbf{R}^n$ の部分空間(部分ベクトル空間)という.
 $\mathbf{R}^n$ の部分空間 $W$ は,適当な行列 $A$ によって
$W=\{\,\mathbf{x}\ |\ A\mathbf{x}=\mathbf{0}\,\}$
と表される 詳しく!
部分空間の基底 $\mathbf{R}^n$ の部分空間 $W$ は,適当な行列 $A$ を用いて
$W=\{\,\mathbf{x}\ |\ A\mathbf{x}=\mathbf{0}\,\}$
と表されるが,このことは $W$ は連立一次方程式 $A\mathbf{x}=\mathbf{0}$ の解の集合だという見方もできる.従って,この連立一次方程式の解が,一次独立なベクトルの組 $\{\,\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_m\,\}$ によって
$\mathbf{x}= t_1\mathbf{a}_1+t_2\mathbf{a}_2+\cdots+t_m\mathbf{a}_m$ $(t_1,t_2,\ldots,t_m\in\mathbf{R})$
と表されるならば, $\{\,\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_m\,\}$ が $W$ の基底ということになる.