線型代数

第13講 ノルムと内積

$\mathbf{R}^n$ におけるノルムと内積 $\mathbf{R}^n$ のベクトル $\mathbf{x}$ のEuclidノルム
$\|\mathbf{x}\|:=\sqrt{{x_1}^2+{x_2}^2+\cdots+{x_n}^2}$ for $\mathbf{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\\\vdots\\x_n\end{array}\right)$
により定義される.
 ノルムが $1$ であるベクトルを単位ベクトルという. $\mathbf{v}$ を零ベクトルでないベクトルとすると,$\dfrac{1}{\|\mathbf{v}\|}\mathbf{v}$ は $\mathbf{v}$ と同じ向きの単位ベクトルである. このように長さを$1$に調整する操作はしばしば正規化と呼ばれる.
 $\mathbf{R}^n$ の二つのベクトル $\mathbf{x},\mathbf{y}$ のドット積
$\mathbf{x}\cdot\mathbf{y}:=x_1y_1+x_2y_2+\cdots+x_ny_n$ for $\mathbf{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\\\vdots\\x_n\end{array}\right),\ \mathbf{y}=\left(\begin{array}{c}y_1\\y_2\\\vdots\\y_n\end{array}\right)$
により定義される. $\mathbf{x}\cdot\mathbf{y}=0$ のとき,$\mathbf{x}$ と $\mathbf{y}$ は互いに垂直である直交する などという.
一般のベクトル空間におけるノルム $V$ をベクトル空間とするとき,$V$ におけるノルムとは,各ベクトル $\mathbf{v}\in V$ に実数 $\|\mathbf{v}\|$ を対応させる写像であって,次を満たすものをいう:
(i) $\|\mathbf{v}\|\ge 0$
(ii) $\|\mathbf{v}\|= 0\Leftrightarrow \mathbf{v}=\mathbf{0}$
(iii) $\|k\mathbf{v}\|= |k|\|\mathbf{v}\|$
(iv) $\|\mathbf{v}+\mathbf{w}\|\le \|\mathbf{v}\|+\|\mathbf{w}\|$
ここで,$\mathbf{v},\mathbf{w}$ は任意のベクトル,$k$ は任意のスカラー(実数または複素数)である. 条件(iv)はしばしば三角不等式と呼ばれる.
一般のベクトル空間における内積 $V$ をベクトル空間とするとき,$V$ における内積とは,二つのベクトルの組 $\mathbf{v},\mathbf{w}\in V$ にスカラー $(\mathbf{v},\mathbf{w})$ を対応させる写像であって,次を満たすものをいう:
(i) $(\mathbf{v},\mathbf{v})\ge 0$
(ii) $(\mathbf{v},\mathbf{v})= 0\Leftrightarrow \mathbf{v}=\mathbf{0}$
(iii) $(k\mathbf{v}+l\mathbf{v}',\mathbf{w})= k(\mathbf{v},\mathbf{w})+ l(\mathbf{v}',\mathbf{w})$
(iv) $(\mathbf{w},\mathbf{v})= \overline{(\mathbf{v},\mathbf{w})}$
ここで,$\mathbf{v},\mathbf{v}',\mathbf{w}$ は任意のベクトル,$k,l$ は任意のスカラーである. (iv)の右辺は複素共役を表す.$V$ が実ベクトル空間(スカラーは実数)ならば内積も実数なので(iv)は
(iv)' $(\mathbf{w},\mathbf{v})=(\mathbf{v},\mathbf{w})$
に置き換えてよい.
 一般の場合も,内積が$0$である二つのベクトルは互いに垂直である直交するなどという.
ベクトル空間 $V$ に内積 $(\cdot,\cdot)$ が定義されているとき,$V$ には
$\|\mathbf{v}\|:=\sqrt{(\mathbf{v},\mathbf{v})}\qquad(\mathbf{v}\in V)$
と定めることによりノルムを導入することができる. $\mathbf{R}^n$ におけるEuclidノルムとドット積がこの関係にあることに注意しよう. 内積が定義されたベクトル空間を内積空間, ノルムが定義されたベクトル空間をノルム空間というが,この意味で, 内積空間は自然にノルム空間とみなすことができるのである.