実数

第5講 実数体の構成

前実数体 全順序集合 $\mathcal{R}$ が前実数体であるとは次の三条件を満たすことをいう:
$\mathcal{R}$ が前実数体であるとき,$\mathbf{Q}$ における演算を $\mathcal{R}$ 全体に拡張することにより,$\mathcal{R}$ を実数体とすることができる. すなわち,$x,y\in \mathcal{R}$ に対して
$\displaystyle \lim_{n\to\infty}p_n=x$,$\displaystyle \lim_{n\to\infty}q_n=y$
となる,有理数列 $(p_n)_{n\in\mathbf{N}}$,$(q_n)_{n\in\mathbf{N}}$ をとり
$\displaystyle x+y\stackrel{\mathrm{def}}{=}\lim_{n\to\infty}(p_n+q_n)$
$\displaystyle xy\stackrel{\mathrm{def}}{=}\lim_{n\to\infty}p_nq_n$
と定義するのである. このことを正当化するためにいくつかの問題を解決しなければならないので,それを以下に見ていこう.
順序集合における点列の収束 $X$ を順序集合とし,$x\in X$ は $X$ の極大元でも極小元でもない何? とする.$X$ の点列 $(x_n)_{n\in\mathbf{N}}$ が $x$ に収束するとは
$x' < x < x''$ なる任意の $x',x''\in X$ に対して
$n\ge N\ \Rightarrow\ x' < x_n < x''$
となる $N\in\mathbf{N}$ が存在する
ことをいう. このとき,$x$ は $(x_n)_{n\in\mathbf{N}}$ の極限点であるといい,$\displaystyle \lim_{n\to\infty}x_n=x$ と書く.
前実数体は全順序集合であり,その点列の収束は上記の意味で考えることになる. しかし有理数列についてはCauchy列という概念を今まで通り定義することができる.すなわち
$\mathcal{R}$ を前実数体とするとき,$\mathcal{R}$ の有理数列 $(p_n)_{n\in\mathbf{N}}$ がCauchy列であるとは
$\forall\varepsilon\in\mathbf{Q}_+,\ \exists N\in\mathbf{N},\ m,n\ge N\ \Rightarrow\ |p_m-p_n| < \varepsilon$
が成り立つことをいう.
前実数体から実数体へ さて,$\mathcal{R}$ を前実数体とするとき, 任意の $x,y\in \mathcal{R}$ に対してそれぞれの「近似有理数列」を考えることにより和 $x+y$,積 $xy$ という演算を定義したいのだが,そのために確認すべきことは以下の三つである:
$(5.1)$ 任意の $x\in \mathcal{R}$ に対して,$x$ に収束する有理数列が存在する
$(5.2)$ 極限点をもつ有理数列はCauchy列である
$(5.3)$ 有理Cauchy列は極限点をもつ
以上により,$x,y\in \mathcal{R}$ に対して
$\displaystyle \lim_{n\to\infty}p_n=x$,$\displaystyle \lim_{n\to\infty}q_n=y$
となる,有理数列 $(p_n)_{n\in\mathbf{N}}$,$(q_n)_{n\in\mathbf{N}}$ をとったとき $(p_n+q_n)_{n\in\mathbf{N}}$ および $(p_nq_n)_{n\in\mathbf{N}}$ がCauchy列であることが示され,従ってそれらの極限として
$\displaystyle x+y\stackrel{\mathrm{def}}{=}\lim_{n\to\infty}(p_n+q_n)$
$\displaystyle xy\stackrel{\mathrm{def}}{=}\lim_{n\to\infty}p_nq_n$
と,$\mathcal{R}$ 全体において和と積を定義することができる.
そこまでくれば以下を確かめることはもはや容易であろう:
$(5.4)$ これらの演算の定義は近似有理数列のとりかたによらない
$(5.5)$ これらの演算に関して $\mathcal{R}$ は順序体となる
実数体の一意性 前節までの結論として,実数体を構成するには前実数体を構成すればよいということになった.その具体的方法を次講で見ていくが,この講の最後に,実数体は一つしかないこと,すなわち異なった方法で構成された実数体であってもそれらは互いに順序体として同型であることを確認しておこう:
$\mathbf{R}$,$\mathbf{R}'$ がともに実数体ならば,これらは順序体として同型である.すなわち,全単射 $\tilde{f}:\mathbf{R}\to \mathbf{R}'$ が存在して,任意の $x,y\in \mathbf{R}$ に対して
$x < y\ \Rightarrow\ \tilde{f}(x) < \tilde{f}(y)$
および
$\tilde{f}(x + y ) =\tilde{f}(x)+\tilde{f}(y),\quad \tilde{f}(xy) =\tilde{f}(x)\tilde{f}(y)$
が成り立つ.
問題