線型代数

第10講 部分空間の生成

部分空間の生成 第3講ですでに述べているが,改めて言葉と記号の意味を思い出しておこう.一般に,ベクトル $\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n$ が与えられたとき,スカラー(実数) $t_1,t_2,\ldots,t_n$ により
$t_1\mathbf{a}_1+t_2\mathbf{a}_2+\ldots+t_n\mathbf{a}_n$
と表されるベクトルを $\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n$ の線型結合(一次結合)というが,それらをすべて集めた集合を $\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n$ が生成する(張る)部分空間といい,$\langle\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n\rangle$ と表す:
$\langle\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n\rangle$ $\stackrel{\mathrm{def}}{=}\{\,t_1\mathbf{a}_1+t_2\mathbf{a}_2+\ldots+t_n\mathbf{a}_n\ |\ t_1,t_2\ldots,t_n\in\mathbf{R}\,\}$
この形で与えられた部分空間を行列 $A$ を用いて $\{\,\mathbf{x}\ |\ A\mathbf{x}=\mathbf{0}\,\}$ の形で表すためには
$\mathbf{x}=t_1\mathbf{a}_1+t_2\mathbf{a}_2+\ldots+t_n\mathbf{a}_n$
を解にもつ連立一次方程式をつくればよい.すなわち,この式から $t_1,t_2,\ldots,t_n$ を消去して得られる関係式が $\mathbf{x}$ の満たすべき条件ということになる. 特に,$\mathbf{R}^n$ の $n$ 本のベクトルからなる組 $\{\,\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n\,\}$ が一次独立ならば,これは $\mathbf{R}^n$ の基底であるから
$\langle\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n\rangle=\mathbf{R}^n$
となる詳しく!
 $\langle\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n\rangle$ の形で与えらた部分空間の基底を求めるには,この $\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n$ からできるだけ多くのベクトルを選び一次独立な組をつくればよい.一次独立性の判定は一目では難しい場合が多いので,次の事実を利用して適切な変形を行えばよい:
$\{\,\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n\,\}$ のうちあるベクトルのスカラー倍を他のベクトルに加えても部分空間は不変である.すなわち,例えば $\mathbf{a}_j$ の $k$ 倍を $\mathbf{a}_i$ に加えて得られる部分空間
$\langle\mathbf{a}_1,\ldots,\mathbf{a}_i+k\mathbf{a}_j,\ldots,\mathbf{a}_j,\ldots,\mathbf{a}_n\rangle$
は元の $\langle\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n\rangle$ と等しい詳しく!pdf
$3$ 次元ベクトルの外積 やや寄り道にはなるが,$3$ 次元ベクトルの外積(ベクトル積)はいろいろな場面で有用なので,ここである程度計算に慣れておこう.
 $3$ 次元ベクトル $\mathbf{a}=\left(\begin{array}{c}a_1\\a_2\\a_3\end{array}\right)$, $\mathbf{b}=\left(\begin{array}{c}b_1\\b_2\\b_3\end{array}\right)$ の外積 $\mathbf{a}\times\mathbf{b}$ は
$\left(\begin{array}{c}a_1\\a_2\\a_3\end{array}\right)\times\left(\begin{array}{c}b_1\\b_2\\b_3\end{array}\right)=\left(\begin{array}{c}a_2b_3-a_3b_2\\a_3b_1-a_1b_3\\a_1b_2-a_2b_1\end{array}\right)$
により定義され,これは $\mathbf{a}$ と $\mathbf{b}$ の両方に垂直なベクトルを与える.
 $xyz$空間において,$\left(\begin{array}{c}p\\q\\r\end{array}\right)$ を法線ベクトルとし,点 $(x_0,y_0,z_0)$ を通る平面の方程式は
$p(x-x_0)+q(y-y_0)+r(z-z_0)=0$
で与えらえる 詳しく! 法線ベクトルとはその平面に垂直なベクトルのことであるから,外積を用いると法線ベクトルを容易に求めることができる.
 $\mathbf{R}^3$の平行でない $2$ 本のベクトル $\mathbf{a},\mathbf{b}$ は,$\mathbf{R}^3$ の $2$ 次元部分空間を生成し
$\langle\,\mathbf{a},\ \mathbf{b}\,\rangle=\left\{\left.\,\left(\begin{array}{c}x\\y\\z\end{array}\right)\ \right|\ px+qy+rz=0\,\right\}$
と表わされる. $xyz$ 空間における点とその位置ベクトルを同一視する観点から見ると,$\mathbf{R}^3$ の $2$ 次元部分空間は原点を通る平面とみなすことができるのである. このとき,ベクトル $\left(\begin{array}{c}p\\q\\r\end{array}\right)$ は $\mathbf{a}$ と $\mathbf{b}$ の両方と垂直なはずであるから,$\mathbf{a}\times\mathbf{b}$ と平行である. 従って,$\mathbf{R}^3$ の $2$ 次元部分空間に関しては,その基底の外積を利用することで容易に $\{\,\mathbf{x}\ |\ A\mathbf{x}=\mathbf{0}\,\}$ という形の表示を得ることができる.