線型代数

第23講 複素数ベクトルと複素行列

複素数ベクトルと複素行列の演算 複素数ベクトル空間は
$\mathbf{C}^n=\left\{\left.\,\left(\begin{array}{c}z_1\\z_2\\\vdots\\z_n\end{array}\right)\,\right|\,z_1,z_2,\ldots,z_n\in \mathbf{C}\,\right\}$
により定義される.実数ベクトルと同様に,複素数ベクトルはいくつかの複素数の組であって,和とスカラー倍が定義されている詳しく! 複素数の場合はしばしば複素共役何だっけ? をとるという操作を行う.$\mathbf{z}\in\mathbf{C}^n$ のすべての成分の複素共役をとったベクトルを $\overline{\mathbf{z}}$ と書く.
一次独立性,部分空間とその基底なども実の場合と同様に定義される詳しく!
$\mathbf{C}^n$ のベクトルを $\mathbf{C}^m$ のベクトルに移す線型写像は,複素 $m\times n$ 行列(複素数を成分とする $m$ 行 $n$ 列行列)により表される.その和,スカラー倍,積,あるいは行列式,逆行列,余因子行列,階数などは実行列の場合とまったく同様に定義される.複素行列 $A$ のすべての成分の複素共役をとった行列を $\overline{A}$ と書く.特に,次が成り立つ:
$\det{\overline{A}}=\overline{\det{A}}$
${\overline{A}}\,{}^{-1}=\overline{A^{-1}}$
$\mathrm{rank}\overline{A}=\mathrm{rank}{A}$
詳しく!
$\mathbf{C}^n$ におけるドット積とEuclidノルム 複素数ベクトルの演算において特に注意を要するのは内積(ドット積)の計算である.$\mathbf{C}^n$ におけるドット積は
$\left(\begin{array}{c}z_1\\z_2\\\vdots\\z_n\end{array}\right)\cdot\left(\begin{array}{c}w_1\\w_2\\\vdots\\w_n\end{array}\right)=z_1\overline{w_1}+z_2\overline{w_2}+\cdots+z_n\overline{w_n}$
により定義される.
このドット積に対応するノルム(Euclidノルム)は
$\left\|\left(\begin{array}{c}z_1\\z_2\\\vdots\\z_n\end{array}\right)\right\|=\sqrt{|z_1|^2+|z_2|^2+\cdots+|z_n|^2}$
により定義される.$z\overline{z}=|z|^2\ (z\in\mathbf{C})$ に注意せよ.
$\mathbf{C}^n$ の部分空間 $W$ が与えられたとき,上記のドット積に関する正規直交基底,直交補空間 $W^\bot$ などもこれまで通り定義されるが,このような「直交性」は内積に依存するのであるから,ドット積が絡む計算の中で複素共役をとる操作をくれぐれも忘れないようにしよう. 特に,$W$ の正規直交基底を $\{\mathbf{u}_1,\mathbf{u}_2,\ldots,\mathbf{u}_m\}$ とするとき,$\mathbf{C}^n$ から $W$ への直交射影を表す行列 $P_W$ は
$P_W=\mathbf{u}_1\,{}^t\overline{\mathbf{u}_1}+\mathbf{u}_2\,{}^t\overline{\mathbf{u}_2}+\cdots+\mathbf{u}_m\,{}^t\overline{\mathbf{u}_m}$
により与えられる詳しく!
複素行列の対角化 複素行列の固有値,固有ベクトルおよび固有空間の定義も実の場合と同様である.以前にも触れたが,実行列であってもその固有値が虚数になる場合があり,その場合は固有ベクトルも虚数を成分にもつ.