線型代数

第17講 連立一次方程式再考

解の存在条件 実 $m\times n$ 行列 $A=(\,\mathbf{a}_1\ \mathbf{a}_2\ \cdots\ \mathbf{a}_n\,)$ とベクトル $\mathbf{b}\in\mathbf{R}^n$ により
$A\mathbf{x}=\mathbf{b}$
と表わされる連立一次方程式を考える. 一般に,連立一次方程式は解をもたないこともあるから,どのようなときに解をもつか,その条件をここで整理しておく.これまで通り,行列 $A$ が定める線型写像を $f_A$ と書く:
$f_A(\mathbf{x})=A\mathbf{x}\quad(\mathbf{x}\in\mathbf{R}^n)$
次の $\mathrm{(i)}$~$\mathrm{(v)}$ はすべて同値である:
$\mathrm{(i)}$ $A\mathbf{x}=\mathbf{b}$ が解をもつ.
$\mathrm{(ii)}$ $\mathbf{b}\in\mathrm{Im}f_A$
$\mathrm{(iii)}$ $\mathbf{b}\in\langle\,\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n\,\rangle$
$\mathrm{(iv)}$ $\langle\,\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n,\mathbf{b}\,\rangle =\langle\,\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\ldots,\mathbf{a}_n\,\rangle$
$\mathrm{(v)}$ $\mathrm{rank}(\,\mathbf{a}_1\ \mathbf{a}_2\ \cdots\ \mathbf{a}_n\ \mathbf{b})= \mathrm{rank}(\,\mathbf{a}_1\ \mathbf{a}_2\ \cdots\ \mathbf{a}_n)$
解の自由度 前節に引き続き,$A$ を実 $m\times n$ 行列,$f_A$ を$A$ が定める線型写像とする.連立一次方程式
$A\mathbf{x}=\mathbf{b}$
が解をもつとして,その解の一つを $\mathbf{p}$ としよう.$A\mathbf{p}=\mathbf{b}$ である.このとき,$f_A$ の核 $\mathrm{Ker}f_A$ の基底 $\{\,\mathbf{c}_1,\mathbf{c}_2,\ldots,\mathbf{c}_k\,\}$ をとると,この連立一次方程式のすべての解は
$\mathbf{p}+t_1\mathbf{c}_1+t_2\mathbf{c}_2+\cdots+t_k\mathbf{c}_k$ $(t_1,t_2,\ldots,t_k\in\mathbf{R})$
という形で表わされる詳しく! このように表された解を一般解と呼び,$t_1,t_2,\ldots,t_k$ を自由変数,その個数 $k$ を解の自由度と呼ぶ.
(解の自由度) $=\dim\mathrm{Ker}f_A$
であることに注意しよう. また,線型写像の一般的な性質として
$\mathrm{rank}f_A+\dim\mathrm{Ker}f_A=\dim\mathbf{R}^n(=n)$
が成り立つ(第16講)ので,解が存在するとき
(係数行列の階数) $+$ (解の自由度) $=$ (未知数の数)
という関係が確かに成り立つことになる(第12講).
 連立一次方程式が一意解をもつとは,解が存在し,その自由度が $0$ ということである.上記を踏まえれば,次のことを確かめるのは容易であろう.
$A\mathbf{x}=\mathbf{b}$ が解をもつとき,以下はすべて同値である:
 $\mathrm{(i)}$ その解は一意解である
 $\mathrm{(ii)}\ \dim\mathrm{Ker}f_A=0$ (すなわち $\mathrm{Ker}f_A=\{\,\mathbf{0}\,\}$)
 $\mathrm{(iii)}\ \mathrm{rank}A(=\mathrm{rank}f_A)=n$
 $\mathrm{(iv)}$ (係数行列の階数) $=$ (未知数の数)
(補)小行列式と階数 行列の階数を調べるには列(行)基本変形を行うのが基本である(第11講)が,場合によっては小行列式 何? を計算してみることも有効である. すなわち,行列 $A$ の階数についての次の事実を利用するのである証明pdf(再掲)
$\mathrm{rank}A\ge k$ であるための必要十分条件は, $A$ に含まれる $k$ 次の小行列式のなかに0でないものが存在することである.
同次連立一次方程式 前々節と同じ設定で,特に右辺がすべて $0$,すなわち
$A\mathbf{x}=\mathbf{0}$
という形のものを考える.このような連立一次方程式を同次連立一次方程式という. 同次連立一次方程式は明らかに $\mathbf{x}=\mathbf{0}$ を解にもつが,この解を自明解といい,それ以外の解を非自明解という.
 同次連立一次方程式が一意解をもつというのは,すなわち自明解のみをもつということであるから,前々節を踏まえると,以下はすべて同値であることがわかる:
 $\mathrm{(i)}$ $A\mathbf{x}=\mathbf{0}$ が自明解のみをもつ
 $\mathrm{(ii)}\ \dim\mathrm{Ker}f_A = 0$ (すなわち $\mathrm{Ker}f_A=\{\,\mathbf{0}\,\}$)
 $\mathrm{(iii)}\ \mathrm{rank}A(=\mathrm{rank}f_A)=n$
 $\mathrm{(iv)}$ (係数行列の階数) $=$ (未知数の数)