第7講 有理数体の完備化
完備距離空間
前講において,実数体をDedekind切断の集合として構成し,実数体
R (すなわち上限性質をもつ順序体)というものが確かに存在することを確認したが,実数体のもう一つの構成法として「距離空間としての有理数体を完備化する」というものがある.
ここで「距離空間としての有理数体」と言っているが,一般に順序体
X においては
d(x,x′)def=|x−x′|,x,x′∈X
により二点間の「距離」が考えられる.この意味で
Q,
R などの順序体は自然に
距離空間とみなすことができるのである.
参考:
距離空間
第4講において,実数体
R は「任意のCauchy列が収束する」という性質をもつ(もたなければならない)ことを見た.すなわち
R の点列 (an)n∈N がCauchy列ならば limn→∞an=a となる a∈R が存在する.
この意味で,
R は
完備な距離空間である.有理数体
Q はこの「完備性」という性質をもたない.すなわち
Q の点列 (qn)n∈N がCauchy列であっても limn→∞qn=q となる q∈Q が存在するとは限らない.
このことに着目し,この講では再び実数体の存在をまだ知らないつもりになって,完備でない距離空間である
Q から完備な距離空間である
R を構成する方法を見ていこう.
有理Cauchy列の同値類
有理数列
(qn)n∈NがCauchy列であるとは
∀ε∈Q+, ∃N∈N, m,n≥N ⇒ |qm−qn|<ε
が成り立つことであった.このような数列を有理Cauchy列と呼び,すべての有理Cauchy列からなる集合を
C(Q) と書くことにする.
有理Cauchy列
(qn)n∈N∈C(Q) に対して,その同値類
何?
ここでは「同値類」という用語の意味はさほど重要でない.以下で定義される,Cauchy列を要素とする集合のことを指していると把握するだけで十分である.
参考:
同値関係
[(qn)n∈N] を
[(qn)n∈N]def={(pn)n∈N∈C(Q)|limn→∞(pn−qn)=0}
により定め,このようなすべての同値類からなる集合を
C(Q) と表す.
つまり,
C(Q) における同値関係
"∼" を
(pn)n∈N∼(qn)n∈N def⇔ limn→∞|pn−qn|=0
により定め.この同値関係による
C(Q) の商集合を
C(Q) と表すのである:
C(Q)=C(Q)/∼
同値関係,同値類,商集合といった概念の一般論については
同値関係参照.
有理数列
(qn)n∈N を
{q1=1qn+1=qn+2qn+1(n=1,2,…)
により定めると,これは有理Cauchy列であり,
Q に極限点をもたない.つまり
qn は番号が大きくなるにつれてある「場所」に近づいていくのだが,その「場所」に有理数はない.未だ我々はその「場所」に何があるのかを知らない...というのは建前で,実はそれが「
√2」という無理数であることは実数について既に知っている立場からはすぐにわかる.
ここで行おうとしていることは,飽くまでもまだ「
√2」というものを知らない建前で,それがあるに違いない「場所」に近づいていく有理数列により
√2 を表現しようということである.しかしながら,上で定めた
(qn)n∈N に対して
pn=qn+1n(n=1,2,…)
という別の有理数列を考えてみるとわかるように,
(qn)n∈N と同じ「場所」に近づいていく有理数列は無数に考えられる.なのでそれらすべてを集めた集合(同値類)
[(qn)n∈N]={(pn)n∈N∈C(Q)|limn→∞(pn−qn)=0}
でもって
√2 という実数を
定義するのである.
順序
C(Q) における順序を次で定義する:
[(pn)n∈N]<[(qn)n∈N] def⇔ ∃ε∈Q+, ∃N∈N, n≥N⇒qn−pn≥ε
この関係はwell-definedである.すなわち,
[(pn)n∈N]=[(˜pn)n∈N] かつ
[(qn)n∈N]=[(˜qn)n∈N] ならば
[(pn)n∈N]<[(qn)n∈N] ⇔ [(˜pn)n∈N]<[(˜qn)n∈N]
が成り立つ.
実際,
[(pn)n∈N]<[(qn)n∈N] とすると
n≥N0 ⇒ qn−pn≥ε
となる
ε∈Q+ および
N0∈N が存在するが,
limn→∞(pn−˜pn)=limn→∞(qn−˜qn)=0であることより,この
ε に対して
n≥N1 ⇒ |pn−˜pn|<ε3 and |qn−˜qn|<ε3
となる
N1∈N を がとれる.よって,
N=max{N0,N1} とおけば
n≥N ⇒ ˜qn>qn−ε3≥pn+23ε>˜pn+ε3
が成り立ち,
[(˜pn)n∈N]<[(˜qn)n∈N]とわかる.
もちろん
[(pn)n∈N]≤[(qn)n∈N] とは
[(pn)n∈N]<[(qn)n∈N] または [(pn)n∈N]=[(qn)n∈N]
であることとする.
この関係により
C(Q) が順序集合となっていること確かめておこう.集合
X が順序集合であるとは
・∀x∈X, x≤x
・[x≤x′ and x′≤x] ⇒ x=x′
・[x≤x′ and x′≤x″] ⇒ x≤x″
を満たす関係「
≤」が定められていることをいうのであった
第1講.
以下,
[(pn)n∈N] のことを
[(pn)] と書くことにする.
-
∀[(pn)]∈C(Q) に対して [(pn)]≤[(pn)] は明らか.
-
[(pn)]≤[(qn)] and [(qn)]≤[(pn)] とすると,これは
([(pn)]=[(qn)]) or ([(pn)]<[(qn)] and [(qn)]<[(pn)])
と同値だが,[(pn)]<[(qn)] and [(qn)]<[(pn)] はありえないので [(pn)]=[(qn)] である.
- [(pn)]<[(qn)] and [(qn)]<[(rn)] とすると
∃ε∈Q+, ∃N∈N, n≥N⇒qn−pn≥ε and rn−qn≥ε⇒rn−pn≥ε
ゆえ [(pn)]<[(rn)] とわかる.よって,[(pn)]=[(qn)] または [(qn)]=[(rn)] の場合も含め
[(pn)]≤[(qn)] and [(qn)]≤[(rn)] ⇒[(pn)]≤[(rn)]
が成り立つ.
-
C(Q) は上述の関係により全順序集合となる.
任意の
[(pn)n∈N], [(qn)]n∈N∈C(Q) について,
[(pn)n∈N]=[(qn)]n∈N
[(pn)n∈N]<[(qn)]n∈N
[(qn)n∈N]<[(pn)]n∈N
のいずれか一つが必ず成り立つことを示せばよい.
[(pn)n∈N]≠[(qn)]n∈N とすると
∀N∈N, ∃n≥N, |pn−qn|≥ε
となる
ε∈Q+ が存在するが,
この
εに対して,
(pn)n∈N,
(qn)n∈N がそれぞれCauchy列であることより
m,n≥N′ ⇒ |pm−pn|<ε3 and |qm−qn|<ε3
となる
N′∈N を
|pN′−qN′|≥ε を満たすようにとれる.このとき,
もし
pN′<qN′ならば
n≥N′ ⇒ qn−pn=qN′−pN′+(qn−qN′)−(pn−pN′)≥qN′−pN′−|qn−qN′|−|pn−pN′|>ε3
もし
pN′>qN′ならば
n≥N′ ⇒ pn−qn=pN′−qN′+(pn−pN′)−(qn−qN′)≥pN′−qN′−|pn−pN′|−|qn−qN′|>ε3
従って
[(pn)n∈N]<[(qn)n∈N] または
[(qn)n∈N]<[(pn)n∈N] のいずれか一方が成り立つ.
-
C(Q) は最大元も最小元ももたない.
実際,任意の
[(qn)n∈N]∈C(Q) に対して
[(qn−1)n∈N]<[(qn)n∈N]<[(qn+1)n∈N]
が成り立つ.
定値有理数列の同値類
q∈Q に対して,
q に収束する有理数列からなる同値類を
[q] と表すことにする:
[q]={(qn)n∈N|limn→∞qn=q}
さらにこのようなすべての同値類からなる集合を
C(Q)0 と表そう:
C(Q)0def={[q]|q∈Q}
(pn)n∈N,
(qn)n∈N を
pn=1n,
qn=(−23)n
と定めると,これらはともに
0 に収束する有理数列なので
(pn)n∈N, (qn)n∈N∈[0]
である.
同様に,
(rn)n∈N,
(sn)n∈N を
rn=n2n+1,
sn=2n−12n−1
と定めると,これらはともに
12 に収束する有理数列なので
(rn)n∈N, (sn)n∈N∈[12]
である.
任意の
q∈Q に対して,すべての項が
q に等しい数列
(q,q,q,…) を単に
q と書くことにすると,もちろんこの数列は
q に収束するので
q∈[q]
である.
C(Q)0における演算を次で定義する:
p,q∈Qに対して
和 [p]+[q]def=[p+q]
差 [p]−[q]def=[p−q]
積 [p][q]def=[pq]
[q]≠[0],すなわち
q≠0のとき
商 [p]/[q]def=[p/q]
これらの演算はwell-definedである.実際,
[(pn)]=[p],
[(qn)]=[q],すなわち
limn→∞pn=p,
limn→∞qn=qとすると
limn→∞(pn+qn)=p+q
limn→∞(pn−qn)=p−q
limn→∞pnqn=pq
が成り立つから
[(pn)]+[(qn)]=[p+q]=[p]+[q]
[(pn)]−[(qn)]=[p−q]=[p]−[q]
[(pn)][(qn)]=[pq]=[p][q]
また,
q≠0ならば
limn→∞pn/qn=p/q
が成り立つから
[(pn)]/[(qn)]=[p/q]=[p]/[q]
-
これらの演算と前節で定義した順序により,C(Q)0はQと同型な順序体となる.
p∈Qに
[p]∈C(Q)0を対応させる写像
[⋅]:Q→C(Q)0,p↦[p],
が同型を与える.実際,この写像が全射であることは明らかであるし,
(pn)n∈N∈[p], (qn)n∈N∈[q],すなわち
limn→∞pn=p,
limn→∞qn=q とすると,
[p]<[q] とは
n≥N ⇒ qn−pn≥ε
となる
ε>0,
N∈N が存在することだったから,このことが
p<q と同値であるのは明らかである.
に注意すると単射であること,同時にこの写像が順序を保つこともわかる.
さらに
[p+q]=[p]+[q],
[pq]=[p][q]
は
C(Q)0 における和と積の定義であった.
念のために
C(Q)0 において演算と順序が両立していることも確かめておこう.
[p]<[q] とすると,任意の r∈Q に対して p+r<q+r であるから
[p]+[r]=[p+r]<[q+r]=[q]+[r]
また,[0]<[p] かつ [0]<[q] ならば 0<pq であるから
[0]<[pq]=[p][q]
が成り立つ.
-
C(Q)0 は C(Q) の稠密な部分集合である.
[(pn)n∈N]<[(qn)n∈N] なる
[(pn)n∈N], [(qn)n∈N]∈C(Q)を任意にとる.このとき
n≥N0 ⇒ qn−pn≥ε
となる
ε∈Q+ および
N0∈N, が存在するが,この
ε に対して,
m,n≥N1 ⇒ |pm−pn|<ε3 and |qm−qn|<ε3
となる
N1 をとり
N=max{N0,N1},
r=12(pN+qN) とおけば,
r−pN=qN−r=12(qN−pN)≥ε2
ゆえ,
n≥N のとき
pn=pN+(pn−pN)≤r−ε2+ε3=r−ε6
qn=qN+(qn−qN)≥r+ε2−ε3=r+ε6
従って
r−pn≥ε6 and qn−r≥ε6
が成り立つことになり,
[(pn)n∈N]<[r]<[(qn)n∈N]であることがわかる.
上限性質
-
C(Q) は上限性質をもつ
C(Q) の空でない部分集合
Γ が上に有界であるとする.
Γ のすべての上界からなる集合を
U(Γ) で表そう.
U(Γ)≠∅ である.このとき
[p]∉U(Γ),[q]∈U(Γ)
を満たす
p,q∈Q が存在する
本当に?.
実際,
[(rn)n∈N]∈U(Γ) を任意にとると,
(rn)n∈N はCauchy列だから
m,n≥N ⇒|rm−rn|≤12
となる
N∈N がとれる.そこで
q=rN+1 とおけば
n≥N ⇒q−rn≥12
が成り立ち
[(rn)n∈N]<[q],従って
[q]∈U(Γ) である.
同様に,
[(r′n)n∈N]∈Γ を任意にとり
m,n≥N ⇒|r′m−r′n|≤12
となる
N∈N をとって
p=r′N−1 とおけば
[p]<[(r′n)n∈N] ゆえ
[p]∉U(Γ) である.
この
p,q を用いて,新たなCauchy列
(un)n∈N,
(ln)n∈N を次のように構成する:
まず,
l1=p,
u1=q とし,
[p+q2]∈U(Γ) ならば u2=p+q2, l2=l1
[p+q2]∉U(Γ) ならば u2=u1, l2=p+q2
とする.以下同様に,
n=1,2,… に対して
[un+ln2]∈U(Γ) ならば un+1=un+ln2, ln+1=ln
[un+ln2]∉U(Γ) ならば un+1=un, ln+1=un+ln2
と定める.こうして得られる有理数列
(un)n∈N,
(ln)n∈N はともにCauchy列であって,しかも
[(un)n∈N]=[(ln)n∈N] である
詳しく!.
n=1,2,… に対して,
un,
ln の定め方から
un+1−ln+1=un−ln2 従って un−ln=q−p2n−1
これより
limn→∞|un−ln|=0 とわかる.
念のために,
(un)n∈N,
(ln)n∈N がともにCauchy列であることも確かめておこう.
再び
un,
ln の定め方から
un+1=un または un+1=un+ln2
ゆえ
0≤un−un+1≤un−ln2=p−q2n
従って
m<n のとき
0≤um−un=(um−um+1)+(um+1−um+2)+⋯+(un−1−un)≤(q−p)(12m+12m+1+⋯+12n−1)≤q−p2m−1
同様に,
0≤ln+1−ln≤un−ln2=p−q2n から
0≤ln−lm≤q−p2m−1 となることもわかる.
従って,任意の
ε∈Q+ に対して
m,n∈N が十分大きければ
|um−un|<ε ,
|lm−ln|<ε が成り立つ.
そこで
s=[(un)n∈N]=[(ln)n∈N]
とおくと.この
s が
Γ の上限となる.このことを確かめよう.
まず
s∈U(Γ),すなわち
s は
Γ の上界である.そうでないとすると
s=[(un)n∈N]<[(pn)n∈N]
となる
[(pn)n∈N]∈Γ が存在するが,これは
∃ε∈Q+, ∃N∈N, n≥N ⇒ pn−un≥ε
ということだから,
特に,
uN≥uN+1≥uN+2≥⋯ に注意すると
[(pn)n∈N]>[uN]
となっており,これは
[uN]∈U(Γ) であった
そうだっけ?
u1,u2,… 及びついでに
l1,l2,… の定め方を思い出そう.すべての
n∈N について
[un]∈U(Γ) かつ
[ln]∉U(Γ) である.
ことに反する.
また
s=[(ln)n∈N]>[(qn)n∈N]
なる
[(qn)n∈N]∈C(Q) を任意にとると,これは
∃ε∈Q+, ∃N∈N, n≥N ⇒ ln−qn≥ε
ということだから,
特に,
lN≤lN+1≤lN+2≤⋯ に注意すると
[(qn)n∈N]<[lN]
となっており,
[lN]∉U(Γ) であったから
[(qn)n∈N] は
Γ の上界たり得ない.
以上により
s は
Γ の最小の上界,すなわち上限であることがわかった.
完備距離空間としての実数体 以上により,有理Cauchy列の同値類からなる集合
C(Q) が前実数体であることが示された.従って,再び
第5講の方法で演算を定義することにより
C(Q) は実数体となる.
C(Q)=R
前講に続いて,「実数とは何か」という問に対して
実数とは有理Cauchy列の同値類のことである
という二つ目の回答が得られた.
実数体の一意性(
第5講)より,前講で構成したDedekind切断の集合
D(Q) とこの
C(Q) とは,
互いにまったく異なる集合のようではあるが,順序体として同型という意味で
D(Q)=C(Q)=R
とみなすことができる.
ところで,前節の議論を観察すると,
順序体においては上限性質をもつことと距離空間として完備であることは同値であることが自然に予想される.
実際それは正しく
詳しく!,
順序体が上限性質をもてば距離空間として完備であることは既出(
第4講)なので,逆を確かめよう.
X を順序体とする.
X の空でない部分集合
Γ が上に有界であるとし,
Γ のすべての上界からなる集合を
U(Γ) で表す.
U(Γ)≠∅ であるから
x∉U(Γ),y∈U(Γ)
を満たす
x,y∈X がとれる.
この
x,y を用いて,Cauchy列
(un)n∈N,
(ln)n∈N を次のように構成する:
まず,
l1=x,
u1=y とし,
x+y2∈U(Γ) ならば u2=x+y2, l2=l1
x+y2∉U(Γ) ならば u2=u1, l2=x+y2
とする.以下同様に,
n=1,2,… に対して
un+ln2∈U(Γ) ならば un+1=un+ln2, ln+1=ln
un+ln2∉U(Γ) ならば un+1=un, ln+1=un+ln2
と定める.こうして得られる点列
(un)n∈N,
(ln)n∈N はともにCauchy列であるから,
X が距離空間として完備ならば
limn→∞un=u, limn→∞ln=l なる
u,l∈X が存在する.このとき
u=l であって,これが
Γ の上限であることを確かめるのはもはや容易であろう.
従って実数体の定義として次を採用してもよいことになる.
距離空間として完備な順序体のことを実数体といい,R と表す.R の各元を実数という.
問題
表示
-
有理数列 (qn)n∈N が ある正の有理数 q および自然数 k に対して
limn→∞qnk=q を満たし,十分大きな n∈N に対しては qn>0 が成り立つとする.このとき (qn)n∈N は有理Cauchy列であることを示せ.
まず,
0<1Mk<q なる
M∈N をとる.
このとき,十分大きな
n∈N に対しては
qnk>1Mk かつ
qn>0 が成り立つから
n≥N0 ⇒ qn≥1M
となる
N0 がとれる.
さらに,
(qnk)n∈N は収束列ゆえCauchy列であるから,任意に与えられた
ε>0 に対して
m,n≥N1 ⇒ |qmk−qnk|<kMk−1ε
となる
N1 がとれる.よって,
N=max{N0,N1} とおけば、
m,n≥N のとき
|qm−qn|=|qmk−qnk|qmk−1+qmk−1qn+⋯+qmqnk−2+qnk−1≤Nk−1k|qmk−qnk|<Nk−1k⋅kNk−1ε=ε
が成り立つ.
-
次に与えられる有理数列が有理Cauchy列であるかどうか判定せよ.有理Cauchy列である場合は,その同値類がどのような実数を表すか調べよ.
(1) {p1=2pn+1=pn+2pn+1
(2) {q1=1qn+1=3qn+2qn+3
(3) {r1=1rn+1=2rn
(1) |
形式的に limn→∞pn=p とすると p=p+2p+1 から p2=2 が得られるので limn→∞pn2=2 と予想される.
実際
pn+12−2=(pn+2pn+1)2−2=(pn+2)2−2(pn+1)2(pn+1)2=−pn2+2(pn+1)2
であって,さらに任意の n∈N に対して 1≤pn≤2 が成り立つことが容易に確かめられるので
|pn+12−2|≤1(pn+1)2|pn2−2|≤14|pn2−2|
よって
|pn2−2|<14n−1|p12−2|=24n−1
から確かに limn→∞pn2=2 となることがわかる.従って,前問の結果により (pn)n∈N は有理Cauchy列であり,その同値類は無理数 √2 を表す.
|
(2) |
形式的に limn→∞qn=q とすると q=3q+2q+3 から q2=2 が得られるのでやはり limn→∞qn2=2 と予想される.
実際
qn+12−2=(3qn+2qn+3)2−2=7(qn2−2)(qn+3)2
であって,さらに任意の n∈N に対して 1≤qn≤2 が成り立つことが容易に確かめられるので
|qn2−2|<(716)n−1|p12−2|=(716)n−1
から確かに limn→∞qn2=2 となることがわかる.従って,(qn)n∈N も有理Cauchy列であり,その同値類は (pn)n∈N と同じく無理数 √2 を表す.
|
(3) |
形式的に limn→∞rn=r とすると r=2r すなわち r2=2 となるので (pn)n∈N,(qn)n∈N と同様と思われるかもしれないが,この場合は r1=1,r2=2,r3=1,r4=2,… ゆえ (rn)n∈N はCauchy列ではない.
|
-
有理数列 (pn)n∈N,(qn)n∈N を
pn=n∑k=01k!
qn=(1+1n)n
により定める.
このとき,(pn)n∈N,(qn)n∈N はともに有理Cauchy列であって,
C(Q) において [(pn)n∈N]=[(qn)n∈N],すなわち limn→∞|pn−qn|=0 が成り立つことを示せ.
(pn)n∈N がCauchy列であることは,
m<n のとき,次が成り立つことからわかる:
pn−pm=n∑k=m+11k!≤n∑k=m+112k−1≤12m1−12=12m−1
また,二項定理により
qn=(1+1n)n=n∑k=0(nk)(1n)k=1+n∑k=11k!(1−1n)(1−2n)⋯(1−k−1n)≤1+n∑k=11k!(1−1n)=n∑k=01k!−1nn∑k=11k!=pn−1nn∑k=11k!
が成り立つから
0≤pn−qn≤1nn∑k=11k!≤1nn∑k=112k−1≤2n
これより
limn→∞|pn−qn|=0 であり,従って
(qn)n∈N もCauchy列とわかる.
注:
[(pn)n∈N],
[(qn)n∈N] はNapier数
e を表している(
第6講問題5.参照).
-
有理数列 (pn)n∈N,(qn)n∈N を
pn=n∑k=11k2
qn=n∑k=11(2k−1)2
により定める.
このとき,(pn)n∈N,(qn)n∈N はともに有理Cauchy列であって,
C(Q) において [(3pn)n∈N]=[(4qn)n∈N],すなわち limn→∞|3pn−4qn|=0 が成り立つことを示せ.
m<n のとき
0<pn−pm=n∑k=m+11k2≤n∑k=m+11k(k−1)=n∑k=m+1(1k−1−1k)=1m−1n
また
0<qn−qm=n∑k=m+11(2k−1)2≤n∑k=m+11(2k−1)(2k−3)=12n∑k=m+1(12k−3−12k−1)=12(12m−1−12n−1)
ゆえ,
(pn)n∈N,
(qn)n∈N はともにCauchy列である.
さらに,任意に与えられた
ε∈Q+ に対して
m,n≥N ⇒ |pm−pn|<ε
となる
N∈N をとり,
各
n∈N について
p2n=2n∑k=11k2=n∑k=11(2k−1)2+n∑k=11(2k)2=qn+14n∑k=11k2=qn+14pn
が成り立つことに注意すると,
n≥N のとき
|4qn−3pn|=4|p2n−pn|<ε
が成り立つことがわかり,これは
limn→∞|4pn−3qn|=0 を意味する.
注:
limn→∞n∑k=11k2=π26,
limn→∞n∑k=11(2k−1)2=π28 という事実はよく知られている.
-
[(pn)n∈N]<[(qn)n∈N]を次のように定義してもよいか.
∃N∈N, n≥N ⇒ pn<qn
不可.
例えば
pn=1n とすると
limn→∞pn=0 ゆえ
[(pn)n∈N]=[0] であるべきだが,この定義によると
[0]<[(pn)n∈N] ということになってしまう.
-
C(Q)の演算を
[(pn)n∈N]+[(qn)n∈N]def=[(pn+qn)n∈N]
[(pn)n∈N]−[(qn)n∈N]def=[(pn−qn)n∈N]
[(pn)n∈N][(qn)n∈N]def=[(pnqn)n∈N]
[(pn)n∈N]/[(qn)n∈N]def=[(pn/qn)n∈N]
と直接定義することにより,C(Q) が順序体となることを示したい.この場合,どのような困難が生じるか検討せよ.
困難というほどではないが,次のような問題が生じる:まず商の定義においては,Cauchy列
(pn/qn)n∈N は一つでも
qn=0 となる項があると定義できないので,そのような項を除く,といった断りが必要になる.
また,この演算がwell-definedであること,順序と両立することを示すのは難しくはないが,かなり退屈で手間のかかる作業である.
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集合 R2={(x,y)|x,y∈R} における距離 d を
d((x,y),(x′,y′))=√(x−x′)2+(y−y′)2
により定める.
(1) |
d が距離であることを示せ.
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(2) |
この距離 d に関する R2 におけるCauchy列はどのように定義されるべきか.
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(3) |
この距離 d に関して,R2 は完備な距離空間であるか.
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(1) |
任意の x,x′∈R2 に対して
d(x,x′)≥0,
d(x,x′)=0 ⇒ x=x′
d(x,x′)=d(x′,x)
が成り立つことは明らかであろうそうか?.
例えば
(x−x′)2≥0(∀x,x′∈R)
(x−x′)2+(y−y′)2=0⇒ x−x′=y−y′=0
などは順序体の一般的性質である.
任意の x,x′,x″∈R2 に対して三角不等式
d(x,x″)≤d(x,x′)+d(x′,x″)
が成り立つことを示す.a,a′,b,b′∈R に対して
Schwarzの不等式
|aa′+bb′|≤√a2+b2√a′2+b′2
詳しく!
これは
(a2+b2)(a′2+b′2)−(aa′+bb′)2=a2b′2+a′2b2−2aa′bb′=(ab′−a′b)2
により確かめられる.
により
(a+a′)2+(b+b′)2=a2+a′2+b2+b′2+2aa′+2bb′≤a2+a′2+b2+b′2+2√a2+b2√a′2+b′2=(√a2+b2+√a′2+b′2)2
すなわち
√(a+a′)2+(b+b′)2≤√a2+b2+√a′2+b′2
が成り立つことがわかるから
a=x−x′,
a′=x′−x″,
b=y−y′,
b′=b′−b″ として
√(x−x″)2+(y−y″)2≤√(x−x′)2+(y−y′)2+√(x′−x″)2+(y′−y″)2
が得られる.
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(2) |
一般に,距離空間におけるCauchy列は次のように定義される:
∀ε>0, ∃N∈N, m,n≥N ⇒ d(xm,xn)<ε
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(3) |
完備な距離空間である.
実際,((xn,yn))n∈N を R2 のCauchy列とすると,任意の ε>0 に対して
m,n≥N ⇒ √(xm−xn)2+(ym−yn)2<ε
となる N∈N がとれるが
|xm−xn|≤√(xm−xn)2+(ym−yn)2
|ym−yn|≤√(xm−xn)2+(ym−yn)2
に注意すると (xn)n∈N,(yn)n∈N はともに R のCauchy列であることがわかる.
よって,R の完備性より x,y∈R が存在して
limn→∞xn=x,limn→∞yn=y
が成り立ち,従って
d((x,y),(xn,yn))=√(x−xn)2+(y−yn)2≤|x−xn|+|y−yn|
で n→∞ とすれば
limn→∞d((x,y),(xn,yn))=0
すなわち R2 において limn→∞(xn,yn)=(x,y) となる.
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